キック動作で股関節の内側が痛いとき、どう向き合うか
サッカーのキック動作で、股関節の内側や鼠径部に痛みを感じることがあります。
特にインサイドキック、強いシュート、ロングキック、方向転換、踏み込み動作などで痛みが出る場合、股関節内転筋への負担が関係している可能性があります。
今回は、サッカー復帰時の段階的なキックプログラムを提案したArundaleらの論文に加えて、股関節内転筋の痛みとどのように向き合うかを整理していきます。1
キック動作と股関節内転筋の関係
股関節内転筋は、太ももを内側に寄せる筋肉群です。
サッカーでは、ボールを蹴る脚だけでなく、体を支える軸足にも負担がかかります。
Arundaleらの論文では、キック動作に必要なものとして、蹴り足の可動域、筋力、神経筋コントロールに加えて、軸足の安定性も重要だと説明されています。1
つまり、股関節の内側が痛い場合、「蹴る脚だけの問題」とは限りません。踏み込む脚、骨盤の安定性、体幹のコントロール、練習量の増加などが関係していることがあります。
股関節内転筋の痛みで考えられる原因
キック動作で股関節内側に痛みが出る原因は、一つに決めつけることはできません。
スポーツにおける鼠径部痛については、Doha agreementという国際的な合意で、内転筋関連、腸腰筋関連、鼠径部関連、恥骨関連、股関節関連などに分類されています。2
その中で、内転筋関連鼠径部痛は、内転筋部の圧痛があり、股関節内転に抵抗を加えたときに、本人が感じている痛みが再現される状態とされています。2
サッカー現場で考えやすい原因としては、以下のようなものがあります。
- 急なキックやシュートによる内転筋の肉離れ
- 練習量やキック数の急な増加
- インサイドキックや方向転換の繰り返しによる過負荷
- 股関節内転筋の筋力不足
- 過去の鼠径部痛や内転筋損傷の再発
- 体幹・骨盤・軸足の安定性低下
特に、股関節内転筋の筋力低下や過去の鼠径部痛は、今後の鼠径部痛リスクと関連する可能性が報告されています。3
痛みがあるときに、無理に蹴り続けない
サッカーでは、「少し痛いけど蹴れる」という状態がよくあります。
しかし、股関節内転筋の痛みを抱えたまま、強いシュートやロングキックを続けると、痛みが長引く可能性があります。
ArundaleらのIKPでは、キック動作を再開するときに、距離・量・強度を段階的に増やすことが提案されています。1
また、内転筋損傷から復帰する選手では、サイドフットキックの回数や強度を減らすなど、ケガの部位に応じてキック内容を調整する必要があるとされています。1
つまり、「痛みがあるけど、いつも通り蹴る」のではなく、「痛みの出にくい距離・強さ・本数に調整する」ことが大切だと考えられます。
痛みと向き合うための目安
IKPでは、キック後の痛みを見ながら次の段階に進む考え方が示されています。1
- 痛みがなければ、次の段階へ進む
- ウォームアップ中に痛みがあるが、ドリブルやリフティングで消える場合は、前の段階を繰り返す
- ウォームアップ後も痛みが続く場合は中止し、休養後に1段階戻す
- キック後1時間以上痛む、または翌日に痛みが残る場合は、直近の段階を繰り返す
この考え方は、内転筋の痛みに対しても参考になります。
特に大切なのは、「その場で蹴れるか」ではなく、「翌日に痛みが残らないか」を確認することです。
練習中はアドレナリンや集中力で痛みを感じにくいことがあります。しかし、翌日に鼠径部の痛みや張りが強くなる場合、その日の負荷が高すぎた可能性があります。
平均的な治癒期間・復帰目安
股関節内転筋の痛みは、軽いものから重いものまで幅があります。
そのため、全員に当てはまる「平均治癒期間」を一つに決めることはできません。
急性の内転筋損傷に対するSernerらの研究では、MRI grade 0〜2の選手は、臨床的に痛みがなくなるまで中央値13日、コントロールされたスポーツ練習完了まで中央値17日、フルチーム練習復帰まで中央値18日と報告されています。4
一方で、grade 3、つまり完全断裂や腱付着部の剥離を含む重い損傷では、痛みがなくなるまで中央値55日、フルチーム練習復帰まで中央値78日と報告されています。4
この研究をもとにすると、軽度から中等度の急性内転筋損傷では、おおよそ2〜3週間前後で段階的に復帰できるケースがあります。ただし、重度損傷では2〜3か月程度を要する可能性があります。4
また、長く続く内転筋関連鼠径部痛では、Hölmichらの研究で、発症から中央値40週の選手に対して8〜12週間の能動的トレーニングを実施し、治療終了4か月後に競技復帰を評価しています。5
そのため、慢性的な痛みになっている場合は、数日休めば治るというよりも、筋力・協調性・骨盤周囲のコントロールを再構築する期間が必要になると考えられます。
復帰を急がないための考え方
股関節内転筋の痛みがある場合、復帰の判断は「痛みが少し引いた」だけでは不十分かもしれません。
確認したいポイントは、次のようなものです。
- 歩行やジョギングで痛みがない
- 方向転換で痛みがない
- 股関節内転に抵抗をかけても強い痛みが出ない
- 短いパスから始めても翌日に痛みが残らない
- インサイドキック、インステップキック、ロングキックを段階的に増やせる
- 軸足で安定して踏み込める
特にキック動作では、蹴り足だけでなく軸足の安定性も重要です。軸足が不安定なまま蹴ると、股関節や骨盤周囲に余計な負担がかかる可能性があります。
内転筋の痛みに対するトレーニングの考え方
内転筋の痛みがあるときは、痛みを我慢して強いトレーニングをするのではなく、段階的に負荷を戻していくことが大切です。
長引く内転筋関連鼠径部痛に対しては、内転筋だけでなく、骨盤周囲の筋力と協調性を高める能動的トレーニングが有効である可能性が報告されています。5
また、男性サッカー選手を対象にした研究では、コペンハーゲンアダクションを中心とした内転筋強化プログラムが、鼠径部痛の有病率とリスクを低下させたと報告されています。6
ただし、痛みが強い時期にいきなり高負荷のコペンハーゲンアダクションを行うのは適切ではない場合があります。
まずは痛みの出ない範囲で、軽い内転筋収縮、体幹・骨盤の安定化、片脚支持、軽いボールタッチなどから始め、段階的に負荷を上げていくことが現実的だと考えられます。
サッカー現場での実践ポイント
内転筋の痛みがある選手に対して、現場では次のような流れで考えると整理しやすいと思います。
- まず痛みの場所と動作を確認する
- ジョギング、方向転換、片脚支持で痛みが出るか確認する
- 短いパスから再開する
- インサイドキックの本数や強度を調整する
- 翌日の痛みを確認する
- 問題なければ距離・本数・強度を少しずつ増やす
大切なのは、「今日できたか」だけで判断しないことです。
翌日の痛み、張り、違和感、走り方の変化まで含めて確認することで、無理な復帰を避けやすくなります。
まとめ
キック動作で股関節の内側が痛い場合、股関節内転筋への負担が関係している可能性があります。
ただし、鼠径部痛には内転筋だけでなく、腸腰筋、恥骨、鼠径部、股関節など複数の原因が関係することがあります。
軽度から中等度の急性内転筋損傷では、論文上は2〜3週間前後で段階的に復帰できるケースがあります。一方で、重度損傷では2〜3か月程度、慢性的な痛みでは8〜12週間以上のトレーニング期間が必要になる場合があります。4,5
キック復帰では、いきなり強く蹴るのではなく、短い距離、少ない本数、低い強度から始めることが大切です。
そして、痛みが出たときには、無理に進めるのではなく、一段階戻る勇気も必要です。
サッカーを長く続けるためには、「痛みを我慢して蹴る」よりも、「痛みと相談しながら段階的に戻す」ことが大切だと考えられます。
参考文献
- Arundale AJH, Silvers-Granelli HJ, Logerstedt DS, Rojas J, Snyder-Mackler L. An interval kicking progression for return to soccer following lower extremity injury. Int J Sports Phys Ther. 2015;10(1):114-127.
- Weir A, Brukner P, Delahunt E, Ekstrand J, Griffin D, Khan KM, et al. Doha agreement meeting on terminology and definitions in groin pain in athletes. Br J Sports Med. 2015;49(12):768-774.
- Engebretsen AH, Myklebust G, Holme I, Engebretsen L, Bahr R. Intrinsic risk factors for groin injuries among male soccer players: a prospective cohort study. Am J Sports Med. 2010;38(10):2051-2057.
- Serner A, Weir A, Tol JL, Thorborg K, Lanzinger S, Otten R, et al. Return to sport after criteria-based rehabilitation of acute adductor injuries in male athletes: a prospective cohort study. Orthop J Sports Med. 2020;8(1):2325967119897247.
- Hölmich P, Uhrskou P, Ulnits L, Kanstrup IL, Bachmann Nielsen M, Bjerg AM, et al. Effectiveness of active physical training as treatment for long-standing adductor-related groin pain in athletes: randomised trial. Lancet. 1999;353(9151):439-443.
- Harøy J, Clarsen B, Wiger EG, Øyen MG, Serner A, Thorborg K, et al. The Adductor Strengthening Programme prevents groin problems among male football players: a cluster-randomised controlled trial. Br J Sports Med. 2019;53(3):145-152.

