読みたい本を「自分で選ぶ」体験を、宇和島市にも。愛南町BOOKピクニックから考える読書と地域書店の支援
主な参考資料:愛南町教育委員会.(2025)「あいなんBOOKピクニック(本屋遠足)」.
この記事では、愛南町で始まった「BOOKピクニック(本屋遠足)」の取り組みをもとに、宇和島市で同じような事業を行うと、どのくらいの費用がかかるのかを試算しました。
私は、この取り組みは宇和島市でも参考にできる内容だと感じています。
子どもたちが本屋に行き、自分で読みたい本を選ぶ。
その体験は、単に本を1冊買うだけではなく、「本に出会う」「自分で選ぶ」「地域の書店を知る」という学びにつながる可能性があると考えられます。本屋の数が年々減少傾向にある日本において、子どもたちが紙の本に触れ、自分で本を選び、長い文章にじっくり向き合う機会は少なくなっているのかもしれません。
しかし、私たち日本人は、これまで文字によって歴史を記録し、知識を蓄積し、次の世代へと受け継いできました。もちろん、文化の伝承には、言葉、祭り、芸能、地域の暮らしなど、文字以外の方法もあります。それでも、文字を読み、考え、理解し、自分の言葉で表現する力は、これからの時代においても、すべての子どもたちに開かれているべき大切な力だと思います。
だからこそ、子どもたちが本屋に行き、自分で読みたい本を選ぶ経験は、単なる読書支援にとどまらず、地域の文化や学びを未来につなぐ取り組みとして、大きな意味があるのではないでしょうか。
1. 愛南町の「BOOKピクニック」とは
愛南町教育委員会によると、「あいなんBOOKピクニック(本屋遠足)」は、町内の小中学生が書店を訪れ、自分で本を選んで購入する取り組みです。町内の児童生徒には、1人2,000円分の図書カードが配布されています¹。
添付された新聞記事では、愛南町内の全小中学校の児童生徒852人が、町内唯一の書店である明屋書店南宇和店を訪れ、本を購入する取り組みとして紹介されていました²。
愛南町教育委員会は、この取り組みについて、紙の本に触れる機会をつくること、読書活動を広げること、そして図書館のない町において書店を「知の拠点」として大切にすることを目的にしていると説明しています¹。
これは、教育施策であると同時に、地域の文化を支える施策でもあると感じます。
2. 愛南町ではどのくらいの費用がかかっているのか
愛南町の令和7年度6月補正予算概要では、「学校活動支援事業(あいなんBOOKピクニック(本屋遠足)事業等)」として、2,494千円が計上されています³。
ただし、この予算項目には「等」と記載されているため、2,494,000円すべてが図書カード代だけとは断定できません。
図書カード代だけで単純に計算すると、新聞記事に記載された852人に対して、1人2,000円分を配布するため、次のようになります²。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 図書カード代のみ | 852人 × 2,000円 | 1,704,000円 |
| 補正予算上の関連事業費 | 学校活動支援事業として計上 | 2,494,000円 |
| 差額 | 2,494,000円 − 1,704,000円 | 790,000円 |
この差額には、事業運営に必要な事務費や関連経費などが含まれている可能性がありますが、予算資料だけでは内訳までは確認できません。
そのため、ここでは「図書カード代だけの最低限の試算」と、「愛南町の予算単価をもとにした試算」の2つに分けて考えます。

3. 宇和島市で実施した場合の費用試算
宇和島市の公式資料によると、令和8年5月1日時点の市立小学校児童数は2,418人、市立中学校生徒数は1,476人で、合計3,894人です⁴。
児童生徒数については、国の学校基本調査でも市町村別・学年別の児童数が公表されており、統計確認の基本資料として活用できます⁵。今回は、宇和島市公式サイトで公表されている最新の児童生徒数を用いて試算しました⁴。
まず、愛南町と同じように、宇和島市の小中学生全員に1人2,000円分の図書カードを配布した場合は、次のようになります。
| 対象 | 人数 | 1人あたり | 必要額 |
|---|---|---|---|
| 小学生 | 2,418人 | 2,000円 | 4,836,000円 |
| 中学生 | 1,476人 | 2,000円 | 2,952,000円 |
| 小中学生合計 | 3,894人 | 2,000円 | 7,788,000円 |
つまり、図書カード代だけで考えると、宇和島市で小中学生全員を対象にした場合、約779万円が必要になります。
次に、愛南町の補正予算額2,494,000円を、新聞記事に記載された852人で割ると、1人あたり約2,927円になります²³。
この単価を宇和島市の小中学生3,894人に当てはめると、次のようになります。
| 対象 | 人数 | 愛南町予算単価 | 宇和島市換算 |
|---|---|---|---|
| 小学生のみ | 2,418人 | 約2,927円 | 約708万円 |
| 中学生のみ | 1,476人 | 約2,927円 | 約432万円 |
| 小中学生合計 | 3,894人 | 約2,927円 | 約1,140万円 |
このため、宇和島市で同じような事業を行う場合、ざっくりとした目安は次のようになります。
| 実施方法 | 宇和島市での必要額の目安 |
|---|---|
| 図書カード代のみで実施 | 約779万円 |
| 愛南町の予算単価に近い形で実施 | 約1,140万円 |
| まず小学生だけで実施 | 約484万円〜約708万円 |

4. 宇和島市が真似する価値はあるのか
私は、宇和島市でもこの取り組みは検討する価値があると考えています。
理由は大きく3つあります。
1つ目は、子どもたちが「自分で本を選ぶ経験」を得られることです。
読書は、言葉を学ぶだけでなく、感性、表現力、想像力を育てるうえでも大切な活動とされています⁶。学校で配られた本を読むだけでなく、書店に行き、表紙を見て、手に取り、迷いながら選ぶ体験そのものに意味があるように感じます。
2つ目は、地域の書店を支えることにつながる可能性があることです。
経済産業省などがまとめた「書店活性化プラン」では、全国的に書店数が減少していることや、書店が地域の文化拠点として重要な役割を持っていることが示されています⁷。地域の書店がなくなると、子どもたちが偶然に本と出会う場所も減ってしまいます。
3つ目は、費用規模が比較的見えやすいことです。
宇和島市で小中学生全員を対象にしても、図書カード代だけなら約779万円、愛南町の予算単価で考えても約1,140万円です。もちろん、市の財政全体の中で優先順位を考える必要はありますが、子どもの読書環境、学び、地域文化、書店支援を同時に進められる施策としては、検討しやすい規模ではないかと感じます。
5. 宇和島市で行うなら、どんな形がよいか
宇和島市で実施する場合、いきなり全小中学生を対象にする方法もありますが、まずは段階的に始めるのも現実的だと思います。
たとえば、次のような方法が考えられます。
| 実施案 | 内容 | メリット |
|---|---|---|
| 小学4年生だけで試行 | 読書習慣が広がる時期に実施 | 費用を抑えて始めやすい |
| 小学5・6年生で実施 | 自分の興味に合わせて本を選ぶ | 調べ学習や作文にもつなげやすい |
| 小学生全員で実施 | 家庭の経済状況に関係なく本に触れる機会をつくる | 読書機会の格差を小さくしやすい |
| 小中学生全員で実施 | 愛南町と同じように広く展開 | 市全体の読書推進事業として打ち出しやすい |
また、愛南町の教育委員会議事録では、図書カード自体は他の店舗でも使えるものの、できるだけ町内の書店で使ってほしいという考えが示されています⁸。
宇和島市で行う場合も、単に図書カードを配るだけではなく、市内の書店、学校図書館、市立図書館、学校、教育委員会が連携し、「本を選ぶ」「感想を書く」「友達に紹介する」までをセットにすると、より教育的な取り組みになると考えられます。
6. この取り組みの課題も考えておきたい
一方で、課題もあります。
まず、図書カードを配るだけでは、地域書店での購入につながらない可能性があります。愛南町でも、図書カードの利用場所を完全に限定することは難しいようで、町内書店での利用をお願いする形になっています⁸。
そのため、宇和島市で実施する場合は、以下のような工夫が必要かもしれません。
| 課題 | 考えられる工夫 |
|---|---|
| 市外やネット購入に流れる可能性 | 学校単位で市内書店を訪問する |
| 本を買って終わりになる可能性 | 読書感想、紹介カード、発表活動につなげる |
| 書店側の受け入れ負担 | 学校ごとに日程を分ける |
| 財源の確保 | まずは学年限定で試行する |
大切なのは、「本を買う事業」で終わらせないことです。
子どもたちが本屋に行き、自分で本を選び、その本について誰かに話す。
そこまで設計できれば、読書推進、言語活動、地域文化の支援がつながる取り組みになるのではないでしょうか。
7. まとめ
愛南町のBOOKピクニックは、子どもたちに本を届けるだけでなく、地域の書店を大切にし、紙の本に触れる機会をつくる取り組みです。
宇和島市で同じように実施した場合、図書カード代だけなら約779万円、愛南町の予算単価で換算すると約1,140万円が目安になります。
この金額をどう見るかは、市の財政や他の優先課題とのバランスもあります。
ただ、子どもたちの読書環境を整え、地域の書店を支え、学びの機会を広げるという意味では、宇和島市でも十分に検討する価値があると感じます。
私は、まずは小学4年生や小学5・6年生など、対象を絞ったモデル事業として始めるのが現実的ではないかと思います。
子どもたちが、自分で本を選ぶ。
その小さな経験が、将来の学びや感性を育てる一歩になるかもしれません。
参考文献・参考資料
- 愛南町教育委員会.(2025)あいなんBOOKピクニック(本屋遠足).
- 愛媛新聞.「読みたい本探し 書店へ」掲載日確認中. ユーザー提供紙面.
- 愛南町企画財政課.(2025)令和7年度 6月補正予算 概要説明書.
- 政府統計の総合窓口(e-Stat).(2025)学校基本調査.
- 宇和島市学校教育課.(2026)児童生徒数について.
- 文部科学省.(2008)子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画について.
- 経済産業省ほか.(2025)書店活性化プラン.
- 愛南町教育委員会.(2025)令和7年5月22日 第6回教育委員会議事録.

