スマホがなぜ少年期に規制されるのか——脳の発育と「今しかできない経験」を守るために——

谷本一真
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この記事では、近年海外で広がっているスマホ・SNS規制の流れを紹介しながら、なぜ少年期のスマホ利用には大人によるルールづくりが必要なのかを考えてみます。スマホそのものを悪いものとして決めつけるのではなく、脳の発育、前頭葉の機能、時間の使い方、少年期にしかできない経験という視点から整理していきます。

海外では、子どものスマホやSNS利用を法律や学校ルールで制限する動きが広がっています。背景には、少年期の脳や前頭葉が発達途中で、強い刺激や通知に影響されやすいことがあります。規制は子どもを縛るためではなく、運動・会話・失敗・学びなど、少年期にしかできない経験の時間を守るために必要だと考えられます。

My summary
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はじめに:海外では子どものスマホ・SNS利用を法律で制限する動きが広がっている

近年、海外では子どもや若者のスマホ・SNS利用について、家庭任せではなく、法律や学校のルールとして制限する動きが広がっています。

UNESCOの報告では、2026年3月時点で、世界の114の教育制度が学校での携帯電話使用を全国的に禁止しており、これは世界全体の約58%にあたるとされています¹。つまり、スマホを学校から遠ざける流れは、一部の国だけの特殊な動きではなく、世界的な教育政策の一つになりつつあります。

たとえば、オーストラリアでは、2025年12月10日から16歳未満の子どもが年齢制限対象のSNSアカウントを作成・保持できないよう、プラットフォーム側に「合理的な措置」を求める制度が始まっています²。これは子ども本人や保護者を罰する制度というより、SNSを運営する企業側に責任を求める仕組みです²。

フランスでは、2018年の法律により、幼稚園・小学校・中学校における児童生徒の携帯電話などの使用が原則禁止されています³。アメリカ・フロリダ州でも、14歳未満のSNSアカウント取得を禁止し、14歳・15歳については保護者の同意を求める制度が整えられています⁴。

国・地域主な内容ポイント
UNESCOの国際調査114の教育制度が学校での携帯電話使用を全国的に禁止学校でのスマホ制限は世界的に拡大¹
オーストラリア16歳未満のSNSアカウント取得・保持を制限子どもではなく、主にプラットフォーム側へ義務づけ²
フランス幼稚園・小学校・中学校で携帯電話等の使用を原則禁止学校生活と学習環境を守る目的³
米国フロリダ州14歳未満のSNSアカウント取得を禁止、14・15歳は保護者同意無限スクロール、通知、自動再生などの依存的機能にも注目⁴

このような動きの背景には、「子どもは意志が弱いから禁止する」という単純な考えではなく、子どもの脳や生活環境はまだ発達の途中であり、スマホやSNSの仕組みがその発達段階に強く入り込みやすいという問題があります。

私も、SNSのアカウントをもつのは16歳以降に賛成派です。中学生までがスマホ依存にならないための一つの手段だと感じています。

スマホが問題になる理由は「便利だからこそ、強すぎる」ことにある

スマホは、学習、連絡、情報収集、写真、地図、音楽など、生活に欠かせない道具になっています。そのため、スマホを完全に否定する必要はないと考えています。

しかし、少年期の子どもにとって問題になるのは、スマホが便利な道具であると同時に、注意を奪い続ける設計になっている点です。

通知、ショート動画、無限スクロール、「いいね」、おすすめ表示、自動再生などは、子どもが「もう少しだけ」と感じやすい仕組みです。フロリダ州法でも、SNSプラットフォームの特徴として、無限スクロール、プッシュ通知、自動再生、ライブ配信などの機能が具体的に挙げられています⁴。

つまり、スマホの問題は「画面を見ること」だけではありません。問題は、子どもの注意、時間、感情、報酬感覚を、アプリ側が強く引きつける構造にあります。

脳の発育という視点:大脳辺縁系と前頭葉のバランス

少年期から思春期にかけての脳は、まだ発達の途中にあります。特に重要なのが、大脳辺縁系と前頭前野のバランスです。

大脳辺縁系は、快・不快、報酬、感情、興奮などに関わる領域です。一方、前頭前野は、衝動を抑える、計画を立てる、先を見通す、状況に応じて行動を調整するといった働きに関わります⁵⁻⁷。

思春期の脳では、報酬や刺激に反応するシステムが強く働きやすい一方で、それを冷静にコントロールする前頭前野の機能はまだ成熟の途中にあると考えられています⁵。これは、子どもや若者が「わかっているけれどやめられない」「少しだけのつもりが長時間になってしまう」という状況になりやすい一つの理由かもしれません。

ここで大切なのは、子どもを責めることではありません。むしろ、脳の発達段階を考えると、スマホやSNSの利用を子どもの自己責任だけに任せるのは難しい面がある、ということです。

前頭葉の働き:抑制とプランニングは、経験の中で育つ

前頭前野に関わる実行機能には、主に「抑制」「ワーキングメモリ」「認知の柔軟性」などがあります⁶。簡単にいうと、目の前の誘惑を我慢する力、今やるべきことを頭に置いておく力、状況に応じて考え方を切り替える力です。

これらの力は、机の上で知識として学ぶだけではなく、日常の経験の中で育っていくものだと考えられます。

たとえば、

・宿題を先にしてから遊ぶ
・練習でうまくいかなかったことを振り返る
・友達と意見が合わない時に話し合う
・試合で負けた悔しさを次の行動につなげる
・暇な時間に自分で遊びを考える

こうした経験の中で、子どもは少しずつ「自分で考えて行動する力」を身につけていきます。

しかし、スマホが常にそばにあると、退屈な時間、考える時間、待つ時間、振り返る時間が失われやすくなります。少しでも暇になると画面を見る。少しでも嫌なことがあると動画やSNSに逃げる。こうした習慣が続くと、自分の感情や時間を自分で扱う経験が少なくなってしまう可能性があります。

少年期にしかできない経験の時間を奪われないために

少年期には、その時期にしか積み重ねにくい経験があります。

外で体を動かすこと、友達と直接遊ぶこと、失敗して悔しい思いをすること、仲間と協力すること、退屈な時間から自分で遊びを生み出すこと、自然や地域の中で過ごすこと。これらは、大人になってからでも経験できますが、子どもの時期に体験するからこそ、身体感覚、社会性、感情の調整、自立心につながりやすいものだと感じます。

WHOは、子ども・青少年に対して、身体活動を増やし、座りすぎを減らすことを推奨しています⁸。また、座位時間、とくに娯楽目的のスクリーン時間が長いことは、体力や心血管・代謝面の健康と関連する可能性があるとされています⁸。ただし、WHOは「何時間までなら安全」といった明確な時間制限を示すには、根拠が十分ではないとも述べています⁸。

つまり、単に「スマホは1日何分まで」と決めればよいという話ではありません。大切なのは、スマホが睡眠、運動、学習、家族との会話、友達との直接的な関わりを押しのけていないかを見ることです。

少年期の時間は、後から取り戻しにくいものです。だからこそ、スマホの使用時間を減らす目的は、「スマホを罰すること」ではなく、「子どもに必要な経験の時間を守ること」だと思います。

大人が規制をするべき理由

子どもにスマホの使い方を任せることは、自立を促すうえで大切な面もあります。しかし、すべてを子どもの判断に任せるのは、現実的には難しいと感じます。

米国小児科学会は、すべての子ども・若者に一律で当てはまる安全なスクリーン時間の上限を示す十分な根拠はないとしつつ、家庭ごとのメディア利用計画や、睡眠・運動・家族時間を守るルールづくりの重要性を示しています⁹。

これは、「何時間なら大丈夫」と考えるよりも、家庭や学校の生活リズムの中で、スマホをどこに置くのかを考える必要があるということです。

たとえば、家庭では次のようなルールが考えられます。

場面具体的なルール例
食事中スマホをテーブルに置かない
就寝前寝室にスマホを持ち込まない
勉強中通知を切り、別の部屋に置く
学校・練習必要時以外は使用しない
家族時間大人も子どもも画面を見ない時間をつくる

大人が規制するということは、子どもを縛ることではありません。子どもが自分でコントロールできるようになるまで、環境を整えることだと思います。

大人も規制をするべき

子どものスマホ利用を考える時、大人自身の使い方も見直す必要があります。

子どもに「スマホを見すぎるな」と言いながら、大人が食事中もスマホを見ている。子どもに「早く寝なさい」と言いながら、大人が寝る直前までSNSを見ている。これでは、子どもにとって説得力がありません。

子どもは、大人の言葉よりも、大人の行動をよく見ています。

だからこそ、子どものスマホを規制するなら、大人も一緒に規制されるべきだと思います。家庭の中で「子どもだけが我慢する」のではなく、「家族全体でスマホとの距離を整える」ことが大切です。

たとえば、

・食事中は大人もスマホを見ない
・寝室には家族全員スマホを持ち込まない
・子どもと話す時は画面を見ない
・通知にすぐ反応しない
・大人も読書、運動、会話、休息の時間を意識する

このような小さなルールは、子どもにとって「スマホより大切な時間がある」というメッセージになります。

まとめ:スマホ規制は、子どもの未来を狭めるためではなく、広げるためにある

スマホやSNSは、現代社会において必要な道具です。これからの子どもたちが、デジタル技術を使いこなす力を身につけることも大切です。

しかし、少年期は、脳も身体も心も発達の途中にあります。前頭前野による抑制やプランニングの力は、経験を通して少しずつ育っていきます。だからこそ、刺激の強いスマホやSNSを、子どもの自己責任だけに任せるのではなく、大人が環境を整える必要があります。

スマホを規制する目的は、子どもから楽しみを奪うことではありません。

むしろ、外で遊ぶ時間、人と直接関わる時間、失敗して考える時間、退屈から創造する時間、身体を動かす時間を守るためです。

少年期にしかできない経験を奪われないようにすること。

そのために、子どもだけでなく、大人も一緒にスマホとの距離を見直す必要があるのだと思います。

参考文献・引用文献

  1. UNESCO Global Education Monitoring Report. Phone bans in schools are spreading worldwide as the policy debate rages on. 2026.
  2. eSafety Commissioner. Social media age restrictions. Australian Government. 2026.
  3. République Française. Code de l’éducation – Article L511-5. Légifrance.
  4. The Florida Senate. 2024 Florida Statutes, Section 501.1736: Social media use for minors. 2024.
  5. Casey BJ, Jones RM, Hare TA. The adolescent brain. Ann N Y Acad Sci. 2008;1124:111-126.
  6. Diamond A. Executive functions. Annu Rev Psychol. 2013;64:135-168.
  7. Best JR, Miller PH. A developmental perspective on executive function. Child Dev. 2010;81(6):1641-1660.
  8. World Health Organization. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Geneva: World Health Organization; 2020.
  9. American Academy of Pediatrics. Screen Time Guidelines. 2025.
  10. Office of the Surgeon General. Social Media and Youth Mental Health. Washington, DC: U.S. Department of Health and Human Services; 2023.
ABOUT ME
谷本一真
谷本一真
理学療法士、呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士、PRP-Japan、JFA-B級
PRI(Postural Restoration Institute)コンセプトを基に、障害予防やパフォーマンス向上を目的としたコンディショニング指導を行っています。また、小学生を中心にサッカー指導者としても活動し、子どもたちの心身の成長をサポートさせていただいています。 運動や生活習慣の改善を通じて、健康づくりのサポートに情熱を注いでいます。
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