山鳥坂ダムの記事を読んで考える、ダムの役割と地域の水

谷本一真
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この記事では、2026年5月10日の愛媛新聞朝刊で紹介されていた「山鳥坂ダムきょう起工式」と、その解説記事「中予分水一転 治水に 政治判断 2度も存続危機」をもとに、ダムの目的、役割、宇和島市との関係、そしてダムが与える影響について整理してみます。

この記事の簡単な紹介

2026年5月10日の愛媛新聞朝刊では、大洲市の山鳥坂ダム本体建設工事の起工式について紹介されていました。山鳥坂ダムは、構想から長い年月を経て、2032年度の完成を目標に本体工事が進められる段階に入ったとされています。¹

もう一つの解説記事では、山鳥坂ダムが「中予分水」を含む計画から、現在の「治水」を中心とした計画へ変わってきた歴史が紹介されていました。²

「中予分水」とは、肱川水系の水を中予地域へ分ける構想です。しかし、肱川下流域では、川の流量が減ることや、河川環境・漁業への影響を心配する声がありました。その結果、山鳥坂ダムは中予分水を除外し、洪水調節と流水の正常な機能の維持を目的とする計画へ再構築されていきました。³

つまり、今回の記事は単に「ダム工事が始まる」という話ではなく、南予と中予の水利用、肱川流域の治水、地域住民の生活、環境への影響、公共事業の長期化という複数の問題を含んだ記事だと感じました。

年代山鳥坂ダムをめぐる主な動き
1986年実施計画調査に着手³
1992年建設事業に着手³
1994年山鳥坂ダム基本計画を公示。事業費は約1,070億円、工期は平成16年度とされていた³
1998〜1999年頃肱川の流量低下や中予分水への懸念が下流域から示される³
2001年中予分水を除外したうえで、河川環境などの課題解消を前提に事業継続へ³
2002年肱川の自然な流れを回復するため、河川環境容量を設けた再構築計画案へ³
2005年特定多目的ダム建設事業から、直轄河川総合開発事業に移行。事業費は約850億円へ³
2009〜2012年頃政権交代に伴うダム事業見直しの流れの中で、事業継続が検討される²
2021年地すべり対策などを踏まえ、ダムサイトを上流に変更。事業費は約1,320億円、完成は令和14年度見込みへ⁴
2026年本体建設工事の起工式が開催¹

この経緯を見ると、山鳥坂ダムは、最初から今の形だったわけではありません。水をどこで使うのか、洪水から何を守るのか、川の自然環境をどう守るのか、その時代ごとの政治判断や地域の声によって、何度も目的や計画が見直されてきた事業だといえそうです。

ダムの役割と機能

ダムは、目的によって大きく「治水ダム」「利水ダム」「多目的ダム」に分けて考えることができます。⁵

種類主な目的説明
治水ダム洪水を防ぐ・軽減する大雨のときに水を一時的にため、下流へ流れる水の量を調整するダム
利水ダム水を利用する水道水、農業用水、工業用水、発電などに使う水を確保するダム
多目的ダム治水と利水の両方洪水調節に加えて、水道・農業・発電など複数の目的を持つダム

国土交通省の資料では、ダムの機能として、洪水調節、河川維持流量の供給、利水補給、発電などが挙げられています。⁶

たとえば、治水機能は、大雨のときにダムへ流れ込む水の一部をため、下流へ流れる水の量を減らす働きです。これは、川の氾濫を完全になくすものではありませんが、洪水被害を小さくするための重要な仕組みです。⁶

一方、利水機能は、水道水や農業用水など、暮らしや産業に必要な水を安定して確保するための働きです。雨が少ない時期でも水を使えるようにするため、ダムは「水の貯金箱」のような役割を持っていると考えるとわかりやすいかもしれません。

山鳥坂ダムの場合、現在の主な目的は「洪水調節」と「流水の正常な機能の維持」です。国土交通省の資料では、山鳥坂ダムは肱川水系河辺川に建設されるダムであり、肱川沿川地域の治水安全度の向上と、肱川の清流の復活を目指すことが説明されています。⁷

山鳥坂ダムの現在の位置づけ内容
建設場所愛媛県大洲市肱川町山鳥坂付近⁷
河川肱川水系河辺川⁷
主な目的洪水調節、流水の正常な機能の維持⁷
ダム形式重力式コンクリートダム⁴
総貯水容量2,200万m³⁴
洪水調節容量1,400万m³⁴
河川環境容量920万m³⁴
完成予定令和14年度、2032年度見込み⁴

ここで大切なのは、山鳥坂ダムは「水道水を確保するためのダム」というよりも、「肱川流域の洪水対策」と「川に必要な水の流れを保つこと」を目的としたダムだという点です。

宇和島市のダムについての現在

今回の記事をきっかけに考えたいのは、宇和島市の暮らしも複数のダムや水源に支えられているということです。

宇和島市に関係の深いダムとして、須賀川ダム、山財ダム、野村ダムがあります。

ダム名場所主な目的宇和島市との関係
須賀川ダム宇和島市柿原付近洪水調節、上水道用水、流水の正常な機能維持宇和島市街地の防災と水道水源に関係
山財ダム宇和島市津島町山財洪水調節、上水道、かんがい用水津島地域などの水道・農業・防災に関係
野村ダム西予市洪水調節、利水など南予水道企業団を通じて宇和島市の水道原水に関係

須賀川ダムは、宇和島市中心部から北東に約3kmの場所にあり、市街地の水害を防ぐことと、上水道用水を供給することを目的に造られました。愛媛県の資料では、須賀川ダムは宇和島市民の防災と水瓶の役割を担ってきたと説明されています。⁸

また、須賀川ダムは、浸水被害を防止する治水機能と、上水道用水などを補給する利水機能を持つ多目的ダムです。かつて宇和島市では、雨が少ない日が続くと水不足による断水が発生していたこと、また洪水時には須賀川沿いに大きな浸水被害が生じていたことも説明されています。⁸

山財ダムは、宇和島市津島町山財にあり、洪水調節、上水道の供給、かんがい用水の確保を目的として造られた多目的ダムです。愛媛県の資料では、堤高64m、総貯水容量6,500千m³とされています。⁹

宇和島市水道ビジョンでは、宇和島市の水道は、市内各所で取水する自己水源の水に加え、南予水道企業団の野村ダム、津島水道企業団の山財ダムからの受水によって水道原水を確保しているとされています。¹⁰

さらに、2026年4月28日時点では、昨秋以降の少雨によって発生していた宇和島市上水道の水源ダムの渇水について、4月以降の降雨により各ダムの貯水率が90%を上回ったため、渇水対策が解除されました。この時点の貯水率は、須賀川ダム91.5%、山財ダム90.4%、野村ダム92.6%でした。¹¹

水源ダム2026年4月28日午前9時時点の貯水率
須賀川ダム91.5%
山財ダム90.4%
野村ダム92.6%

この数字を見ると、普段は意識しにくい水道水も、雨の量、ダムの貯水率、浄水場、送水施設などの仕組みによって支えられていることがわかります。

また、愛媛県の流域治水の資料では、宇和島圏域において、河川改修、河床掘削、砂防・治山施設、森林整備、ダムの事前放流、防災マップ、避難体制などを組み合わせて、水害リスクを減らす取り組みが示されています。¹²

つまり、防災は「ダムがあるから大丈夫」という単純な話ではありません。ダム、河川、森林、まちづくり、避難行動を組み合わせて考えることが重要だといえそうです。

ダムが与える悪影響

ダムには、洪水調節や水資源の確保という大切な役割があります。一方で、自然環境や地域社会に影響を与える可能性もあります。

まず、川の流れが変わることによる影響があります。国土技術政策総合研究所の資料では、ダム下流の生態系に影響しうる要因として、流況、土砂供給、濁度、水質、水温、餌資源などが挙げられています。¹³

たとえば、ダムによって上流から下流へ流れる土砂の量が変わると、川底の砂や石の状態が変化します。その結果、魚類、底生動物、付着藻類などの生息環境に影響が出る可能性があります。¹³

また、川の自然な流れは、川の生態系にとって重要です。Poffらは、河川生態系の健全性は、自然な流況、つまり流量の大きさ、頻度、時期、持続時間、変化の速さなどに支えられていると述べています。¹⁴

そのため、ダムによって水の流れが人工的に調整される場合には、防災上の効果だけでなく、川の自然な働きがどのように変わるのかも見ていく必要があります。

さらに、ダム建設には、用地取得、家屋移転、地域の景観や歴史の変化、建設費や維持管理費の増加といった問題もあります。山鳥坂ダムでも、地すべり対策、物価変動、消費税増、働き方改革、平成30年7月豪雨などの影響により、事業費や工期が大きく変わってきました。⁴

ダムによる主な影響内容
川の流れの変化自然な増水・減水のリズムが変わる可能性
土砂の移動の変化川底の環境や河口・海岸への土砂供給に影響する可能性
生態系への影響魚類、底生動物、付着藻類などの生息環境に影響する可能性
地域社会への影響用地取得、家屋移転、生活環境や景観の変化
財政面の影響建設費、維持管理費、工期延長による負担

ダムは「良い」「悪い」と簡単に分けられるものではありません。大切なのは、何を守るためのダムなのか、どのような影響があるのか、ダム以外の方法と比べてどうなのかを、地域の中で考え続けることだと思います。

まとめ

今回の愛媛新聞の記事は、山鳥坂ダムの本体建設工事の起工式を伝えるものでした。あわせて掲載された解説記事では、山鳥坂ダムが中予分水を含む計画から、現在の治水中心の計画へ変わってきた歴史も紹介されていました。¹ ²

山鳥坂ダムは、当初から現在の形だったわけではありません。中予分水への懸念、肱川の流量低下への心配、地域住民の反対、政権交代による公共事業見直し、地すべり対策や事業費の増加など、さまざまな課題を経て、現在の計画に至っています。² ³ ⁴

一方で、宇和島市に目を向けると、須賀川ダム、山財ダム、野村ダムなどが、暮らしの水や防災を支えています。特に、宇和島市の水道は、自己水源だけでなく、南予水道企業団や津島水道企業団からの受水にも支えられています。¹⁰

ダムは、洪水や渇水から地域を守る大切な社会基盤です。しかし同時に、川の流れ、生態系、土砂の動き、地域の暮らしに影響を与える可能性もあります。¹³ ¹⁴

これから必要なのは、「ダムを造るか、造らないか」という単純な二択ではなく、ダム、河川整備、森林整備、避難体制、地域の防災力を組み合わせて考えることではないでしょうか。

水は、私たちの暮らしを支える一方で、ときに大きな災害をもたらします。だからこそ、新聞記事をきっかけに、身近な川やダム、そして自分たちの地域の防災について考えることは、とても大切なことだと感じました。

参考文献・引用文献

  1. 愛媛新聞社. 山鳥坂ダムきょう起工式 大洲 構想から44年 32年度完成目標. 愛媛新聞. 2026年5月10日朝刊.
  2. 愛媛新聞社. 中予分水一転 治水に 政治判断 2度も存続危機 「山鳥坂」きょう起工式. 愛媛新聞. 2026年5月10日朝刊.
  3. 国土交通省. 山鳥坂ダム建設事業の検証に係る検討 概要資料. 2012. Accessed 2026 May 10.
  4. 国土交通省四国地方整備局 山鳥坂ダム工事事務所. 令和3年度 山鳥坂ダム工事事務所 ダム事業費等監理委員会 資料. 2021. Accessed 2026 May 10.
  5. 国土交通省九州地方整備局 大分河川国道事務所. ダムにはいろいろな種類があるの?. Accessed 2026 May 10.
  6. 国土交通省関東地方整備局. ダムの役割と水の有効活用. Accessed 2026 May 10.
  7. 国土交通省四国地方整備局. 3. 検証対象ダムの概要. Accessed 2026 May 10.
  8. 愛媛県南予地方局 須賀川ダム管理事務所. 須賀川ダム. Accessed 2026 May 10.
  9. 愛媛県南予地方局 山財ダム管理事務所. 山財ダム. Accessed 2026 May 10.
  10. 宇和島市. 宇和島市水道ビジョン. 2025. Accessed 2026 May 10.
  11. 宇和島市. 渇水対応の終了について. 2026. Accessed 2026 May 10.
  12. 愛媛県. 宇和島圏域における「流域治水」の取り組み(案). Accessed 2026 May 10.
  13. 国土技術政策総合研究所. ダム下流河川における付着藻類・底生動物の捉え方. 国総研資料. 2009. Accessed 2026 May 10.
  14. Poff NL, Allan JD, Bain MB, Karr JR, Prestegaard KL, Richter BD, Sparks RE, Stromberg JC. The Natural Flow Regime: A Paradigm for River Conservation and Restoration. BioScience. 1997;47(11):769-784.
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谷本一真
谷本一真
理学療法士、呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士、PRP-Japan、JFA-B級
PRI(Postural Restoration Institute)コンセプトを基に、障害予防やパフォーマンス向上を目的としたコンディショニング指導を行っています。また、小学生を中心にサッカー指導者としても活動し、子どもたちの心身の成長をサポートさせていただいています。 運動や生活習慣の改善を通じて、健康づくりのサポートに情熱を注いでいます。
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