エビデンスは重要。しかしそれだけでは不十分?―個別性と「疑う力」をどう持つか
本記事では、医療や運動指導の現場で重要とされる「エビデンス(科学的根拠)」について、その価値を認めつつも、個別具体的なアプローチや批判的思考の重要性について整理します。
エビデンスはなぜ重要なのか
医療やトレーニングの現場において、エビデンスに基づいた判断は不可欠です。
ランダム化比較試験(RCT)やメタアナリシスといった研究は、多くの対象者から得られたデータをもとに「どの方法が有効である可能性が高いか」を示してくれます¹。
これは言い換えると、
👉「大きく外さないための指針」
であり、現代の医療において欠かせない土台であると考えられます。
しかし「平均」は個人を救うとは限らない
一方で、エビデンスが示す結果の多くは「平均値」です。
現実の現場では、
- 効果が出る人
- 効果が出にくい人
- 場合によっては悪化する人
といった個人差が存在します。
これは「治療効果の異質性」と呼ばれ、研究においても重要な課題とされています²。
👉 つまり、
平均的に正しいことが、目の前の一人に当てはまるとは限らない
という視点が必要になります。
研究と現場のギャップ
研究では条件を揃えるために、
- 年齢制限
- 既往歴の除外
- 生活環境の統制
などが行われます。
その結果、
👉「現実の複雑な生活環境」とは乖離することがあります³。
実際の現場では、
- 睡眠不足
- ストレス
- 栄養状態
- 社会背景
といった多くの要素が影響します。
こうした背景を無視して「エビデンス通り」に適用しても、うまくいかないケースがあるのは自然なことといえます。
エビデンスを「疑う」という視点
ここで重要になるのが、
👉 エビデンスを鵜呑みにしない姿勢
です。
例えば、
- 出版バイアス(良い結果だけが報告されやすい)⁴
- 研究デザインによる結果の偏り
- 対象集団の違い
などにより、結果の解釈には注意が必要です。
ただしこれは、
👉「エビデンスを否定する」という意味ではありません。
むしろ、
👉 より正しく使うために疑う
という姿勢が求められます。
個別具体的アプローチの重要性
人の身体は、
- 遺伝
- 腸内環境
- 生活習慣
- ストレス耐性
などが複雑に絡み合う「複雑系」です⁵。
そのため、
👉 一つの方法ですべてを説明することは難しい
と考えられています。
ここで重要になるのが、
👉 個別最適化(individualization)
です。
同じ運動、同じ指導でも、
- 強度を変える
- 頻度を変える
- タイミングを変える
といった調整が必要になります。
エビデンス × 個別性という考え方
これからの医療や運動指導においては、
👉 エビデンスか個別性か、ではなく「両方」
という視点が重要です。
- エビデンス → 方向性を示す
- 個別性 → 最適化する
この2つを組み合わせることで、
👉 再現性と個別最適の両立
が可能になると考えられます。
私の考え
エビデンスは非常に重要です。
しかしそれだけに依存するのではなく、
- 目の前の人の状態を見る
- 状況に応じて調整する
- 必要に応じて疑う
といった視点も、同じくらい重要であると感じています。
👉 「正解を当てる」のではなく、「最適解を作る」
この考え方が、現場においてはより実践的なのかもしれません。
まとめ
- エビデンスは医療の土台である
- ただし平均値には限界がある
- 研究と現場にはギャップがある
- 個別性を考慮する必要がある
- エビデンスは「疑いながら使う」ことが重要
👉 エビデンス × 個別具体性=実践的なアプローチ
といえると思います。
参考文献(Vancouverスタイル)
- Sackett DL, et al. (1996). Evidence based medicine: what it is and what it isn’t. BMJ. 312(7023):71-72.
https://www.bmj.com/content/312/7023/71 - Kent DM, et al. (2018). The Predictive Approaches to Treatment effect Heterogeneity (PATH) statement. Ann Intern Med. 169(1):35-45.
https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M18-0407 - Rothwell PM. (2005). External validity of randomised controlled trials. Lancet. 365(9453):82-93.
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(04)17670-8/fulltext - Song F, et al. (2010). Publication and related biases. Health Technol Assess. 14(8):iii, ix-xi, 1-193.
https://www.journalslibrary.nihr.ac.uk/hta/hta14080/ - Sturmberg JP, Martin CM. (2009). Complexity and health—yesterday’s traditions, tomorrow’s future. J Eval Clin Pract. 15(3):543-548.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2753.2009.01226.x

