トキが戻るということ——能登の空に舞った一羽から、地域と自然の関係を考える——

谷本一真
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主な参考文献
環境省.(2026)「トキ」自然環境・生物多様性.

この記事では、新聞記事で紹介されていた石川県・能登でのトキ放鳥をきっかけに、トキとはどのような鳥なのか、なぜ日本で姿を消したのか、そして「トキが戻る」とは何を意味するのかを整理してみます。

はじめに

新聞記事では、石川県・能登でトキが放鳥されたこと、そして長年にわたりトキの保護に尽力してきた村本義雄さんの歩みが紹介されていました。

私は小学生の時に読んだトキの本の記憶があり(内容は全く覚えてないが)、愛媛新聞の記事から感心を思い出し、今回ブログ記事を作成してみました。

トキは、単に「きれいな鳥が戻ってきた」という話だけではありません。

人間の暮らし方、農業、里山、水田、生きものとの距離感、そして地域が何を大切にしてきたのかを映し出す存在でもあると思います。

記事の要約

今回の記事の大きな内容は、石川県羽咋市で本州初となるトキの放鳥が行われたことです。環境省は、令和8年5月31日に石川県羽咋市で本州初のトキ放鳥を予定していることを公表していました³。実際の報道では、放鳥されたトキはオス10羽、メス8羽の計18羽で、このうち8羽が木箱から放たれる「ハードリリース方式」で放鳥され、残り10羽は仮設ケージで一定期間飼育した後に放す「ソフトリリース方式」が予定されていると報じられています⁴。 

記事の中心には、101歳の村本義雄さんの姿がありました。

村本さんは、能登にトキが生息していた時代を知り、長年にわたって保護活動に関わってきた方です。石川県の資料でも、村本さんは能登半島のトキ保護に長く関わり、中国陝西省洋県のトキ保護支援や、NPO法人日本中国朱鷺保護協会の設立に関わった人物として紹介されています⁵。 

つまり、今回の放鳥は「一日だけのニュース」ではなく、数十年にわたる保護活動と、地域の願いが重なった出来事だといえそうです。

トキとはどのような鳥なのか

トキは、学名を Nipponia nippon といい、環境省の資料ではペリカン目トキ科に分類されています。全長は約80cm、翼を広げると130cmほどになり、主にドジョウ、カエル、小さな昆虫など、水辺や湿地にすむ小動物を食べる鳥とされています¹。 

トキの特徴としてよく知られているのが、淡いピンク色を帯びた美しい羽です。

この色は「朱鷺色」とも呼ばれ、日本の自然や美意識とも結びついてきた色だと思います。

しかし、その美しさは、かつて乱獲の対象にもなりました。環境省は、トキが減少した要因として、明治時代の羽毛目的の乱獲、昭和以降の森林伐採による繁殖地の減少、農薬の多用による餌動物の減少、山間部の水田の消失などを挙げています¹。 

トキは、ただ空を飛ぶ鳥ではありません。

トキが生きるためには、餌となる小動物がいる水田や湿地、繁殖できる樹木、人との距離が保たれた環境が必要です。

その意味で、トキは「地域の自然環境がどれだけ豊かか」を映す存在ともいえそうです。

トキが減っていった背景

トキの減少には、いくつもの要因が重なっていました。

整理すると、次のようになります。

主な要因内容
乱獲羽毛を目的とした捕獲などにより数が減少
森林環境の変化営巣する大木や繁殖地が減少
農薬の影響餌となるドジョウ、カエル、昆虫などが減少
水田・湿地の変化山間部の水田や湿地環境が失われた
人との距離の変化人間の生活圏の変化により、トキが安心して暮らせる場所が減った

この背景を見ると、トキの絶滅は「鳥だけの問題」ではなかったことが分かります。

人間の暮らし方が変わり、農業が変わり、山や田んぼの環境が変わった結果として、トキが生きにくい社会になっていったのだと思います。

能登でも、かつてはトキが身近にいた時代がありました。羽咋市の資料では、1970年に能登の最後の1羽「能里」が保護され、佐渡トキ保護センターに移されたものの、翌年死亡し、能登の空からトキの姿が消えたと紹介されています⁶。 

この流れを考えると、今回の放鳥は約半世紀以上の時間を経て、能登の空にトキが戻る大きな節目だったといえます。

トキ保護の歩み

トキ保護の歴史を簡単に整理すると、次のようになります。

年代主な出来事
明治時代以降羽毛目的の乱獲などにより個体数が減少
昭和時代佐渡と能登などにわずかに残る状態となる
1970年能登の最後のトキ「能里」が保護される⁶
2003年日本の野生生まれ最後のトキ「キン」が死亡²
2008年佐渡島でトキの放鳥が始まる²
2026年石川県羽咋市で本州初のトキ放鳥が行われる³⁴

環境省によると、2003年に日本の野生産最後のトキ「キン」が死亡しましたが、1999年に中国から贈られた「友友」と「洋洋」のペアをきっかけに飼育下繁殖が進み、2008年以降、佐渡島内で放鳥が行われてきました²。 

この流れを見ると、トキの復活は、日本だけで完結した話ではありません。

中国との協力、国や自治体の取り組み、研究者の努力、地域住民の理解、農家の協力が重なって、少しずつ形になってきたものだと思います。

放鳥すれば終わりではない

今回、能登の空にトキが放たれたことは、とても大きな出来事です。

ただし、トキは放鳥すれば自然に増えていく、という単純なものではないと思います。

トキが生きていくには、餌場が必要です。

餌場となる水田や湿地に、ドジョウ、カエル、昆虫などがいることが大切です¹。

そのためには、農薬や化学肥料の使い方、水田の管理、冬期湛水、ビオトープづくりなど、人間側の工夫も必要になります。

佐渡市の認証米「朱鷺と暮らす郷」では、生きものを育む農法、生きもの調査、化学合成農薬と化学肥料を地域基準より50%以下にすること、畦に除草剤を使わないことなどが要件として示されています⁷。農林水産省の事例でも、佐渡ではトキが暮らしやすい田んぼ環境づくりとして、環境保全型農業や冬期湛水管理などの取り組みが紹介されています⁸。 

つまり、トキを守ることは、農業を守ることでもあり、田んぼの生きものを守ることでもあります。

そして、田んぼの生きものを守ることは、地域の自然や暮らしの質を守ることにもつながっていくのだと思います。

トキが戻る地域に必要なこと

トキが戻る地域には、いくつか大切な視点があると感じます。

視点内容
自然環境餌となる生きものがいる田んぼや湿地を守る
農業生きものと共存する農法を地域で支える
住民理解トキを近くで見たい気持ちと、静かに見守る姿勢の両立
観光トキを地域資源にしながら、過度な負担をかけない
教育子どもたちに自然と人間の関係を伝える

特に大切なのは、「見たい」という気持ちと、「守る」という姿勢のバランスだと思います。

珍しい鳥が戻ってくると、近くで見たい、写真を撮りたいという気持ちは自然に生まれます。

しかし、トキにとっては、人が近づきすぎることがストレスになる可能性があります。環境省の資料でも、トキを見かけた際には静かに見守ること、近づきすぎないこと、餌を与えないことなどのマナーが示されています⁹。 

「戻ってきた自然」を大切にするためには、人間側が少し距離を取ることも必要なのだと思います。

宇和島で暮らす私たちに置き換えて考えること

ここからは、この記事を読んで考えたことです。

トキの話は、石川県や佐渡だけの話ではないと思います。

宇和島にも、海、山、川、田畑、里山があります。

地域の自然は、普段そこに暮らしていると当たり前に感じてしまいます。

しかし、一度失われた自然や生きものを取り戻すには、何十年という時間がかかることがあります。

トキの保護に尽力した村本さんの歩みを考えると、地域を守る活動は、すぐに結果が出るものばかりではないのだと感じます。

それでも、誰かが「大切だ」と思い続けることで、次の世代につながる可能性があります。

これは、健康づくりにも似ていると感じました。

身体も、地域も、自然も、一度崩れてから元に戻すには時間がかかります。

だからこそ、日々の小さな積み重ねが大切なのだと思います。

トキは「環境の象徴」かもしれない

トキが空を舞う姿は、とても美しいと思います。

しかし、その美しさの背景には、人間が自然とどう関わってきたのかという歴史があります。

乱獲、農薬、森林の変化、水田の減少。

その一方で、保護活動、繁殖研究、国際協力、農家の努力、地域の理解もありました。

トキは、人間が自然を壊してしまう力を持っていることと、同時に、時間をかけて自然を回復させる力も持っていることを教えてくれる存在なのかもしれません。

おわりに

今日の記事を読んで、トキが戻るということは、単に鳥を放すことではないと感じました。

それは、地域の自然をもう一度見つめ直すこと。

人間の暮らし方を少しずつ整えること。

そして、長い時間をかけて守ってきた人たちの思いを、次の世代につないでいくことなのだと思います。

能登の空に舞ったトキは、これからどのように暮らしていくのでしょうか。

その姿を静かに見守りながら、私たちの地域でも、自然や身体、暮らしを守るために何ができるのかを考えていきたいと思いました。

参考文献・参考資料

1. 環境省.(2026)トキ.

2. 環境省.(2026)佐渡トキ保護センター.

3. 環境省.(2026)本州初となるトキ放鳥の一般見学の募集について.

4. 石川テレビ.(2026)国の特別天然記念物トキを本州で初めて放鳥 長年尽力した101歳の村本義雄さんの悲願.

5. 石川県.(2026)トキの歴史.

6. 羽咋市.(2026)能登のトキものがたり.

7. 佐渡市.(2024)佐渡市認証米「朱鷺と暮らす郷」とは?

8. 農林水産省.(2016)田んぼの生き物を育む米づくり 佐渡トキの田んぼを守る会.

9. 環境省関東地方環境事務所.(2026)トキがやってきたら.

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谷本一真
谷本一真
理学療法士、呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士、PRP-Japan、JFA-B級
PRI(Postural Restoration Institute)コンセプトを基に、障害予防やパフォーマンス向上を目的としたコンディショニング指導を行っています。また、小学生を中心にサッカー指導者としても活動し、子どもたちの心身の成長をサポートさせていただいています。 運動や生活習慣の改善を通じて、健康づくりのサポートに情熱を注いでいます。
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