心不全で余生をつらくしないために――愛媛県の心不全死亡率とフレイル予防から考える健康づくり――

谷本一真
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論文のメイン著者:Francesca Rubino 氏
所属:Translational and Clinical Research Institute, Faculty of Medical Sciences, Newcastle University, United Kingdom

この記事では、日経メディカルで紹介されていた高齢者の心筋梗塞治療に関する研究をきっかけに、「心不全で余生をつらく過ごさないためには、フレイル予防も重要ではないか」という視点で考えていきます。
特に、愛媛県では心不全の年齢調整死亡率が全国より高い水準で推移していることが示されており、宇和島市のように高齢化が進む地域では、医療だけでなく日頃からの体づくりも大切な課題だと感じます¹²。

はじめに

心不全や心筋梗塞と聞くと、多くの人は「薬」「検査」「カテーテル治療」「手術」など、病院での治療を思い浮かべるかもしれません。

もちろん、これらの医療は命を守るためにとても大切です。

しかし、高齢期の循環器疾患では、病気そのものだけでなく、その人の体力、筋力、栄養状態、歩く力、生活機能なども、その後の生活に大きく関係してくると考えられています¹³。

私も病院勤務時代に、心不全や心筋梗塞の高齢患者様を担当する機会がありました。運動機能が良い方は、スムーズに退院すると感じています。

心不全でこれからの生活をつらくしないためには、病気を治療することに加えて、「治療に耐えられる体」「退院後に生活を戻せる体」「自分らしく動ける体」を守ることが大切ではないでしょうか。

そのために重要になるのが、フレイル予防です。

この論文の紹介

今回紹介されていた研究は、75歳以上の非ST上昇型心筋梗塞、いわゆるNSTEMIの患者さんを対象としたSENIOR-RITA試験の二次解析です¹。

NSTEMIとは、心臓の血管の流れが悪くなり、心臓の筋肉が傷つくタイプの心筋梗塞です。
SENIOR-RITAは、75歳以上のNSTEMI患者さんに、積極的なカテーテル治療が本当に有効なのかを調べた大規模研究です。特に今回の解析では、体力や筋力が低下したフレイル高齢者で、治療の効果と負担のバランスが検討されました。

My summary
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この研究では、フレイルのある高齢患者さんに対して、冠動脈造影や必要に応じた血行再建を行う「侵襲的治療」と、薬物療法を中心とした「保存的治療」を比較しています¹。

対象となったフレイル患者さんは469人で、中央値年齢は83歳でした。結果として、フレイルのある患者さんでは、侵襲的治療を行っても、心血管死亡または非致死的心筋梗塞を有意に減らす結果は示されませんでした¹。

さらに、フレイルの程度が強い人では、侵襲的治療による不利益の可能性も示唆されています¹。

ここで大切なのは、「カテーテル治療が不要」という意味ではないことです。

この論文が示しているのは、高齢者の循環器疾患では、病名だけで治療方針を決めるのではなく、その人のフレイルの程度、体力、生活機能、本人の希望を含めて、個別に判断することが大切だということだと考えられます¹。

心筋梗塞の研究から、心不全について考える

今回の論文は、心不全そのものではなく、心筋梗塞の高齢患者さんを対象にした研究です。

ただし、心筋梗塞と心不全はまったく別々の問題ではありません。

心筋梗塞→心不全
心筋梗塞は、心臓の筋肉に血液を送る血管が詰まることで起こる病気です。その後、心臓の働きが低下すると、心不全につながることがあります。

心不全になると、息切れ、疲れやすさ、むくみ、活動量の低下などが起こりやすくなります。活動量が落ちると、筋力が低下し、さらに動けなくなり、食欲や社会参加も減っていくことがあります。

この流れは、フレイルが進んでいく流れとも重なります³。

つまり、心不全を予防すること、心不全を悪化させないこと、そしてフレイルを予防することは、別々の話ではなく、つながった健康課題として考える必要があるのではないでしょうか。

愛媛県では「患者数」より「死亡率」が課題

ここで少し、愛媛県の状況を整理しておきたいと思います。

「愛媛県は心不全患者が多い」と言い切るには、患者数や受療率などの資料を丁寧に確認する必要があります。

一方で、愛媛県の第2期循環器病対策推進計画では、令和4年の心疾患の粗死亡率が全国2位と高く、特に心不全の年齢調整死亡率が全国より高い水準で推移していることが示されています²。

つまり、根拠に沿って表現するなら、次のように整理するのがよさそうです。

表現根拠に合うか
愛媛県は心不全患者数が多い患者数としては慎重な確認が必要
愛媛県は心不全の死亡率が高い公的資料に基づいて表現しやすい
心不全を重症化させない対策が重要地域課題として考えやすい

そのため、この記事では「愛媛県は心不全患者が多い」と断定するのではなく、「愛媛県では心不全による死亡率が高く、心不全を重症化させないための予防や生活機能の維持が重要」と表現します²。

宇和島市でフレイル予防を考える意味

宇和島市についても、「心不全患者数が愛媛県内で特に多い」と断定できる公開資料までは確認できませんでした。

しかし、宇和島市の第3次健康づくり推進計画では、令和6年3月末時点の高齢化率が41.0%と示されています⁴。

また、同計画では、年齢を重ねても健康でいきいきと暮らすためには、加齢とともに心身の活力が低下し、生活機能障がいや要介護状態の危険性が高くなる「フレイル」を防ぐことが大切だとされています⁴。

さらに、宇和島市はフレイル予防の推進として、高齢者の低栄養対策、筋肉量の減少や体力低下による要介護状態への移行を抑える取り組み、社会参加を継続できる機会づくりを掲げています⁴。

この点から考えると、宇和島市では「心不全患者数が多いかどうか」だけに注目するのではなく、高齢化が進む地域として、心不全を含む循環器疾患で生活機能が落ちないようにする取り組みが重要だといえそうです。

フレイルとは何か

フレイルとは、加齢に伴って体や心の予備力が低下し、病気、入院、転倒、環境の変化などのストレスに対して回復しにくくなる状態とされています³。

健康な状態と要介護状態の中間にある状態とも言われ、早い段階で気づき、適切に対応することで改善できる可能性があります³。

フレイルには、筋力や歩行能力の低下といった身体的な面だけでなく、気分の落ち込み、認知機能の低下、人とのつながりの減少といった心理的・社会的な面も関係します³。

心不全の方では、息切れや疲労感によって外出や運動の機会が減りやすくなります。すると、筋力が落ち、さらに動きにくくなり、食欲や社会参加も低下しやすくなります。

この悪循環を防ぐことが、心不全とともに生活するうえでも大切だと考えられます。

フレイル予防の3つの柱

フレイル予防では、主に「運動」「栄養」「社会参加」の3つが大切だとされています⁷。

1つ目は、運動です。

歩く、立ち上がる、階段を使う、軽い筋力トレーニングをするなど、日常生活の中で体を動かすことは、筋力やバランス能力を保つために大切です。WHOの身体活動ガイドラインでも、高齢者には有酸素運動だけでなく、筋力トレーニングやバランス運動を含む多要素の運動が推奨されています⁸。

2つ目は、栄養です。

高齢期では、食べすぎだけでなく、食べられないことやたんぱく質不足も問題になります。筋肉を守るためには、主治医から制限を受けていない範囲で、たんぱく質を含めた食事を意識することが大切です⁷。

3つ目は、社会参加です。

人と会う機会が減ると、活動量が減り、気持ちも落ち込みやすくなります。地域の活動、通いの場、運動教室、趣味の集まりなど、人とのつながりを持つこともフレイル予防につながります⁴⁷。

心不全で余生をつらくしないために

心不全は、完全に避けられる病気ではないかもしれません。

しかし、血圧管理、減塩、適切な服薬、定期受診、そして日々の身体活動によって、悪化を防いだり、生活の質を保ったりできる可能性があります。

日本循環器学会などの心血管疾患リハビリテーションに関するガイドラインでは、心臓リハビリテーションは、単に退院後に体力を戻すだけでなく、再入院の予防、QOLの改善、長期予後の改善を目指す疾病管理プログラムとして位置づけられています⁶。

つまり、心不全で余生をつらくしないためには、病院での治療だけでなく、日頃から「動ける体」を守ることが必要です。

無理な運動をする必要はありません。

今の自分に合った範囲で、立つ、歩く、軽く筋力を使う、人と会う、しっかり食べる。そうした小さな積み重ねが、将来の生活を守る力になるのではないでしょうか。

まとめ

今回の記事と論文から改めて考えさせられたのは、高齢期の循環器疾患では、「どの治療を行うか」だけでなく、「その治療を受ける本人の体力や生活機能がどうか」がとても大切だということです。

心筋梗塞や心不全は、医療の力が必要な病気です。

しかし、医療の効果を生活につなげるためには、日頃からフレイルを予防し、筋力、栄養、社会参加を守ることが欠かせません。

愛媛県では、心不全の年齢調整死亡率が全国より高い水準で推移していることが示されています²。さらに、宇和島市は高齢化率が高く、フレイル予防の必要性が市の計画にも明記されています⁴。

だからこそ、心不全を「病院だけの問題」として考えるのではなく、地域の中で、日常生活の中で、少しずつ体を守っていくことが大切だと感じます。

心不全で余生をつらくしないために。
その第一歩として、フレイル予防を地域全体で考えていく必要があるのではないでしょうか。

※胸痛、強い息切れ、急なむくみ、体重の急増、動悸、失神などがある場合は、自己判断せず、医療機関に相談してください。

参考文献

1. Rubino F, Mossop H, Ripley DP, et al.(2026)「Invasive vs Conservative Strategy for Frail Older Patients With Myocardial Infarction: A Secondary Analysis of the SENIOR-RITA Randomized Clinical Trial」『JAMA Network Open』9(4), e267316. doi:10.1001/jamanetworkopen.2026.7316.
Invasive vs Conservative Strategy for Frail Older Patients With Myocardial Infarction

2. 愛媛県(2024)「第2期愛媛県循環器病対策推進計画」
第2期愛媛県循環器病対策推進計画

3. Clegg A, Young J, Iliffe S, Rikkert MO, Rockwood K.(2013)「Frailty in elderly people」『Lancet』381(9868), 752-762. doi:10.1016/S0140-6736(12)62167-9.
Frailty in elderly people

4. 宇和島市保健福祉部保険健康課(2025)「第3次宇和島市健康づくり推進計画」
第3次宇和島市健康づくり推進計画

5. 日本循環器学会・日本心不全学会(2025)「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」
2025年改訂版 心不全診療ガイドライン

6. 日本循環器学会・日本心臓リハビリテーション学会(2021)「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン 2021年改訂版」
心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン 2021年改訂版

7. 厚生労働省(2021)「健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ」
100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ

8. World Health Organization.(2020)『WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour』Geneva: World Health Organization.
WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour

ABOUT ME
谷本一真
谷本一真
理学療法士、呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士、PRP-Japan、JFA-B級
PRI(Postural Restoration Institute)コンセプトを基に、障害予防やパフォーマンス向上を目的としたコンディショニング指導を行っています。また、小学生を中心にサッカー指導者としても活動し、子どもたちの心身の成長をサポートさせていただいています。 運動や生活習慣の改善を通じて、健康づくりのサポートに情熱を注いでいます。
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