今後のリハビリテーションに求められること——「治療後の回復」から、暮らしを切れ目なく支える仕組みへ

谷本一真
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

2026年7月に閣議決定された「骨太の方針2026」には、「予防・医療・介護を通じた切れ目のないリハビリテーション」が明記されました。これは、リハビリテーションを病院内の訓練だけでなく、予防、在宅生活、社会参加までつながる仕組みとして捉え直す動きだと考えられます。

この記事では、国の方針や世界保健機関(WHO)の考え方を確認しながら、今後のリハビリテーションと理学療法士に何が求められるのかを考えます。

1. はじめに

私は2009年に理学療法士の資格を取得し、病院やフィットネスの現場で、人の身体や動きに関わってきました。

病院では、病気やけがの後に失われた機能を回復させることが大きな役割になります。一方、地域やフィットネスの現場では、「まだ病気ではないけれど、以前より歩きにくくなった」「転びそうで外出が減った」「運動を始めたいが、何をすればよいか分からない」といった相談に出会います。

こうした経験から、今後のリハビリテーションには、病気やけがの後だけでなく、機能低下の予防から在宅生活、社会参加までを連続して支える視点が必要だと感じています。

2. 骨太の方針2026で何が示されたのか

日本理学療法士協会は、2026年7月21日に閣議決定された「骨太の方針2026」に、リハビリテーションが明記されたことを紹介しています¹。

予防・医療・介護を通じた切れ目のないリハビリテーション

政府方針では、この言葉が「攻めの予防医療と疾病対策」の項目に置かれ、脚注には「効果的な訪問リハビリテーションの充実を含む」と記されています²。さらに、多職種連携、DX・AX、PHR(個人の健康・医療情報)の利活用も盛り込まれています²。

これに先立つ2026年5月19日には、厚生労働省に「リハビリテーション統括調整室」が設置されました。医療、介護、障害福祉などの垣根を越え、予防や健康増進も含めて、分野横断的に政策を進めるための体制です³。

ただし、骨太の方針は国の方向性を示す文書です。今回の記載だけで、個別のサービス内容、診療・介護報酬、人員配置が直ちに変わるわけではありません。今後、制度設計、財源、人材確保、地域での実施方法まで具体化できるかが重要になります。

3. 「身体機能の回復」から「生活機能を支える」へ

WHOは、リハビリテーションを、健康上の問題がある人とその人を取り巻く環境との関係を踏まえ、生活機能を最適化し、障害を軽減するための働きかけと位置づけています⁴。世界では、約24億人が何らかのリハビリテーションを必要とし得ると推計されており、高齢化や慢性疾患の増加に伴って需要はさらに高まると予測されています⁴。

ここで大切なのは、筋力や関節可動域だけを改善することが最終目的ではないという点です。

  • 歩行速度が上がり、近所の店まで買い物に行ける
  • 椅子から立ち上がりやすくなり、自宅での生活を続けられる
  • 肩が動かしやすくなり、着替えや仕事を再開できる
  • 転倒への不安が減り、地域活動や趣味に参加できる

WHOの国際生活機能分類(ICF)でも、健康状態は「心身機能・身体構造」だけでなく、「活動」「参加」および「環境因子」を含めて捉えます⁵。今後は、「どこまで動くか」だけでなく、「その動きを使って、どのような生活を取り戻したいのか」まで共有することが、より重要になると考えます。

4. 予防に関わる——ただし、何でも「リハビリ」と呼ばない

骨太の方針2026では、リハビリテーションが予防医療の流れの中に位置づけられました²。今後は、病気やけがが起きてから対応するだけでなく、移動能力の低下、転倒リスク、生活範囲の縮小などを早めに捉え、適切な支援につなぐ役割が期待されると考えられます。

添付いただいたスポーツ庁の「令和7年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」は、小学校5年生と中学校2年生を対象に、体力と運動習慣を把握した調査です。令和7年度は体力合計点が前年度より上昇した一方、中学生男子を除いてコロナ禍前の令和元年度の水準には戻っていませんでした。また、運動時間が長い児童生徒ほど体力合計点が高い傾向が示されています⁶。

ただし、この調査はリハビリテーションの効果を検証したものではなく、運動時間と体力の因果関係を証明するものでもありません⁶。それでも、子どもの時期から身体活動や運動への関わり方を支えることが、生涯にわたる健康づくりを考えるうえで重要な課題であることは読み取れます。

私の考えでは、予防領域が広がるほど、専門職は「何でもリハビリと呼ぶ」ことに慎重であるべきです。一般的な健康づくりと、医学的なリスク管理や生活機能評価に基づく専門的支援を整理し、必要な人に必要な介入を届けることが、理学療法士の専門性につながると考えます。

5. 退院を「終わり」にしない仕組みが必要

急性期、回復期、外来、訪問、通所、介護予防という制度上の区分があっても、本人の生活は一続きです。しかし実際には、支援の場が変わるたびに、目標や評価結果、生活上の課題が十分に引き継がれないこともあります。

今後求められる「切れ目のないリハビリテーション」とは、単にサービスを長く続けることではないと思います。

  • 入院中から、退院後の住環境や生活動線を想定する
  • 本人が大切にしている生活目標を、支援者間で共有する
  • 必要に応じて訪問支援や地域の運動・交流の場につなぐ
  • 状態が変化したときに、医療へ戻れる経路を用意する

WHOも、必要な人へ支援を届けるためには、リハビリテーションを一部の専門施設だけに置くのではなく、医療制度の各段階へ統合する必要があるとしています⁷。病院から在宅へ一方向に送り出すのではなく、状態に応じて行き来できる仕組みが必要です。

6. データとデジタル技術は「人をつなぐ道具」にする

骨太の方針2026では、医療・介護分野のDX・AXやPHRの利活用が示されています²。リハビリテーションでも、評価結果や支援内容を共有しやすくなれば、施設や職種が変わっても共通の目標を持ちやすくなります。

一方で、数値を集めること自体が目的になってはいけません。歩行速度、立ち上がり能力、バランス、生活範囲などの客観的な評価に加えて、「また畑に行きたい」「孫と出かけたい」「仕事を続けたい」といった本人の希望も記録し、支援に反映することが大切です。

AIやデジタル技術は、専門職の判断や人との関係を置き換えるものではなく、情報共有や継続支援を助ける道具として使う必要があると考えます。

7. 地方では「受けられる仕組み」まで設計する

どれほど質の高いリハビリテーションがあっても、通う手段がない、近くに専門職がいない、退院後につながる場所がないという状況では、必要な人へ届きません。

地方では、医療機関や介護事業所だけで完結させず、訪問支援、地域の通いの場、行政、学校、スポーツ団体、民間の運動施設などが、それぞれの役割と限界を理解しながら連携することが重要だと思います。遠隔支援も選択肢になりますが、対面での評価が必要な場面を見極め、安全性を確保する視点は欠かせません。

大規模な施設を新たにつくることだけが解決策ではありません。地域にすでにある人材や場所をつなぎ、「予防」「医療」「介護」「社会参加」の間に生じる空白を小さくすることが、地域のリハビリテーションには求められると考えます。

8. これから理学療法士に求められる5つの力

  1. 生活機能を評価する力
    筋力や関節だけでなく、活動、参加、環境まで整理する。
  2. 本人と目標を共有する力
    専門職が決めた目標ではなく、その人が望む生活を言葉にする。
  3. 予防と治療の境界を判断する力
    運動を勧めるだけでなく、医学的リスクや受診の必要性を見極める。
  4. 多職種・地域と連携する力
    一人の専門職で抱え込まず、医療、介護、福祉、行政、地域資源につなぐ。
  5. 成果を説明する力
    何を行ったかだけでなく、生活や社会参加がどう変わったのかを評価し、伝える。

技術を高めることは、これからも重要です。ただし、技術を提供すること自体が目的ではありません。その技術によって、本人の暮らしにどのような変化が生まれたのかまで確認する姿勢が、これまで以上に問われると思います。

9. まとめ——リハビリテーションを地域の健康インフラへ

骨太の方針2026にリハビリテーションが明記されたことは、政策上の重要な一歩です。しかし、言葉が記載されたことと、必要な人が必要な支援を受けられることの間には、まだ距離があります。

今後のリハビリテーションに求められるのは、病院で身体機能を回復させることに加えて、予防、在宅生活、仕事、子育て、スポーツ、地域活動までを見渡し、その人らしい生活を切れ目なく支えることだと考えます。

そして理学療法士には、「動きを良くする専門職」であると同時に、「動けることを生活や社会参加につなげる専門職」としての役割が、より強く求められていくのではないでしょうか。

私もその一役を担えるように、これからも勉学に励み行動を起こしていきます。

参考文献・参考資料

  1. 公益社団法人日本理学療法士協会.(2026)【経済財政運営と改革の基本方針】骨太の方針2026に「リハビリテーション」が明記される.
  2. 内閣府.(2026)経済財政運営と改革の基本方針2026.
  3. 厚生労働省.(2026)リハビリテーション統括調整室について.
  4. World Health Organization.(2024)Rehabilitation.
  5. World Health Organization.(2001)International Classification of Functioning, Disability and Health(ICF).
  6. スポーツ庁.(2025)令和7年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果.
  7. World Health Organization.(2023)Landmark resolution on strengthening rehabilitation in health systems.
ABOUT ME
谷本一真
谷本一真
理学療法士、呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士、PRP-Japan、JFA-B級
PRI(Postural Restoration Institute)コンセプトを基に、障害予防やパフォーマンス向上を目的としたコンディショニング指導を行っています。また、小学生を中心にサッカー指導者としても活動し、子どもたちの心身の成長をサポートさせていただいています。 運動や生活習慣の改善を通じて、健康づくりのサポートに情熱を注いでいます。
記事URLをコピーしました