文化芸術鑑賞・体験推進事業とは?|宇和島のジャズコンサートから考えてみました

谷本一真
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主な参考文献:文化庁.(2026)「学校における文化芸術鑑賞・体験推進事業」.

愛媛新聞の記事で、宇和島市の小中学生がプロの演奏家と一緒にジャズを体験した授業が紹介されていました。

記事では、宇和島市学習交流センター「パフィオうわじま」で、小中学生がプロの演奏を聴いたり、リコーダーやタンバリンなどを使って一緒にセッションしたりした様子が伝えられていました。

学校の授業でプロの音に触れる機会は、日常的にはなかなか多くありません。私自身も、子どもたちの体づくりやサッカー指導に関わる中で、「本物に触れる経験」が子どもたちの感性や意欲に与える影響は大きいのではないかと感じています。

かくいう私も、小学生の時にオペラ歌手の人(岡本さんだったかな…?)が小学校に来校されて生歌を聞いて本にサインをもらった記憶があります。

そこで今回は、今回の宇和島市での取り組みを入口に、文化庁の「学校における文化芸術鑑賞・体験推進事業」とはどのような事業なのか、予算規模や対象地域、過去の実施状況を調べてみました。

1. 今回の宇和島市の取り組みは、どんな事業だったのか

今回のジャズコンサートは、公開されている学校日記では
「文化庁主催 学校における文化芸術鑑賞・体験推進事業―学校・地域社会連携型公演―」
として紹介されています¹²。

高光小学校の記録では、児童がパフィオ宇和島でジャズコンサートを鑑賞し、「アンパンマンのマーチ」「スーパーマリオのテーマ曲」「トルコ行進曲」「ルパン三世のテーマ」など、子どもたちに親しみのある曲を通してジャズに触れたことが紹介されています¹。

三間中学校の記録でも、全校生徒がパフィオで行われたジャズコンサートに参加し、原曲とジャズアレンジの違いを聴き比べたり、手拍子や鳴り物を使って会場全体でセッションを楽しんだりしたことが紹介されています²。

手元の愛媛新聞紙面では、市内の小中学生約350人が参加したと報じられていました。新聞記事と学校の公開記録を合わせて見ると、今回の事業は「子どもたちがプロの文化芸術を鑑賞する」だけでなく、「一緒に参加し、体験する」ことを重視した授業だったといえそうです。

2. 文化芸術鑑賞・体験推進事業とは?

文化庁によると、「学校における文化芸術鑑賞・体験推進事業」は、小学校・中学校等に文化芸術団体や個人・少人数の芸術家を派遣し、子どもたちが質の高い文化芸術を鑑賞・体験する機会を確保する事業です³。

目的は、子どもたちの創造力・想像力、思考力、コミュニケーション能力などを養うことに加え、将来の芸術家や観客層を育てることにもあります³。

今回の宇和島のように、学校の外にある文化施設を会場として、複数の学校が合同で参加する形は、現在は「学校・地域社会連携型公演」と呼ばれています³。

事業の種類を簡単に整理すると、次のようになります。

区分内容令和8年度予定
学校巡回公演団体が学校等で公演1,876校⁴
ユニバーサル公演障がいへの理解も重視240校⁴
芸術家・クリエイター派遣講話・実技・創作等2,990校⁴
学校・地域社会連携型公演文化施設で合同開催110企画⁴
コミュニケーション能力向上継続型ワークショップ200校⁴

今回の宇和島の取り組みは、パフィオうわじまという地域の文化施設を活用し、複数の学校の子どもたちが一緒に体験する形だったため、「学校・地域社会連携型公演」に当たると考えられます。

3. 予算規模はどのくらいなのか

文化庁の令和8年度予算資料では、「学校における文化芸術鑑賞・体験推進事業」の予算額は5,621百万円、つまり約56.2億円です⁴。

令和7年度の予算額は5,580百万円とされており、令和8年度は前年度より約4,100万円増えています⁴。

次の表にまとめてみました。

年度予算額日本円での見方
令和7年度5,580百万円⁴約55.8億円
令和8年度5,621百万円⁴約56.2億円
増加分41百万円約4,100万円

ただし、今回の宇和島市でのジャズコンサート単体にいくら使われたのか、宇和島市の負担額があったのかについては、公開情報だけでは確認できませんでした。

そのため、この記事では「国全体の事業予算」と「宇和島市で実施された個別事業の内容」は分けて考える必要があります。

4. 対象地域はどこなのか

この事業の対象は、国内の小学校・中学校・特別支援学校等です⁵。

文化庁資料では、各家庭の経済的な格差や文化に対する意識の差によって生じる文化芸術体験格差を解消すること、また文化芸術団体による公演が都市部に集中しないよう、山間・へき地・離島などの学校にも文化芸術体験の機会を届けることが示されています⁵。

つまり、この事業は単に「都会の大きなホールで良い公演を行う」ためのものではなく、地域による文化体験の差を小さくする意味も持っていると考えられます。

宇和島のような地方都市では、東京や大阪と比べると、子どもたちがプロの演奏や舞台芸術に触れる機会は限られやすいかもしれません。だからこそ、地域の文化施設を使い、学校の授業としてプロの芸術に触れる機会をつくることには、大きな意味があるように感じました。

5. 過去の実施状況から見えること

文化庁の令和6年度調査研究報告書では、全国の小中学校等2,737校から回答を得て、文化芸術鑑賞・体験機会の実施状況が整理されています⁶。

令和5年度に、文化芸術鑑賞機会と体験機会のどちらも実施していた学校は22.9%、鑑賞機会のみ実施していた学校は39.1%、体験機会のみ実施していた学校は3.4%でした⁶。

これらを合計すると、何らかの文化芸術鑑賞・体験を実施していた学校は65.4%になります。一方で、「過去に1度も実施されたことがなかった」と回答した学校も8.7%ありました⁶。

令和5年度の状況割合
鑑賞・体験の両方あり22.9%⁶
鑑賞のみあり39.1%⁶
体験のみあり3.4%⁶
過去に1度もなし8.7%⁶

また、文化芸術鑑賞・体験を実施した学校のうち、約80%は1事業のみの実施だったとされています⁶。

この数字を見ると、文化芸術鑑賞・体験の機会は一定程度広がっている一方で、学校によって回数や内容には差がありそうです。宇和島で今回のような機会があったことは、子どもたちにとって貴重な経験だったのではないでしょうか。

6. 留意しておきたいこと(断定はできません)

一方で、このような事業には留意点もあります。

文化庁の調査では、学校巡回公演に応募しなかった理由として、「申請や経理に係る事務的な負担が大きい、またはどの程度かかるかわからない」が42.5%で最も高くなっていました⁶。

また、文化芸術活動の事業評価や授業評価において、成果指標を設定している学校は8.9%にとどまっており、91.0%は成果指標を設定していないとされています⁶。

これは、文化芸術の価値が低いという意味ではありません。むしろ、文化芸術の効果は、テストの点数や数値だけでは測りにくい面があると考えられます。

ただし、事業として継続していくためには、「楽しかった」で終わらせるだけでなく、子どもたちの感想、授業とのつながり、地域施設との連携、次の学びへの広がりなどを丁寧に記録していくことも大切かもしれません。

7. ここから考えたこと

今回の記事を読んで、文化芸術の体験は「ぜいたくなもの」ではなく、子どもの育ちに関わる大切な学びの一つなのだと感じました。

スポーツでも、子どもが一流のプレーを目の前で見ると、言葉では説明しきれない刺激を受けることがあります。音楽や芸術でも同じように、プロの音、間、表情、空気感に触れることで、子どもの中に何かが残るのではないでしょうか。

特にジャズは、決められた楽譜をただ再現するだけでなく、その場の音を聴き合いながら表現していく音楽です。記事にあった「一期一会の音」という言葉は、子どもたちにとっても、地域にとっても、とても良い表現だと感じました。

宇和島には、パフィオうわじまのような文化施設があります。こうした場所が、子どもたちの学びや地域のつながりの場として使われることは、まちにとっても大切な財産になるのではないかと思います。

8. まとめ

今回調べてみて、次のことが分かりました。

・今回の宇和島のジャズコンサートは、文化庁の「学校における文化芸術鑑賞・体験推進事業」の一環と確認できました。
・令和8年度の国の予算額は5,621百万円、約56.2億円です。
・対象は全国の小学校・中学校・特別支援学校等で、山間・へき地・離島などの地域格差の解消も意識されています。
・一方で、申請や事務負担、成果の見えにくさといった課題もあります。

文化芸術は、すぐに数字で成果が見えにくい分野かもしれません。

それでも、子どもたちがプロの音に触れ、「自分も一緒に音を出してみる」という体験は、長い目で見ると心に残る学びになる可能性があります。

宇和島でも、このような機会が続いていくことで、子どもたちの感性や地域への愛着が少しずつ育っていくのかもしれません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献・参考資料

  1. 宇和島市立高光小学校.(2026)6/26 ジャズコンサート「文化庁主催 学校における文化芸術鑑賞・体験推進事業―学校・地域社会連携型公演―」. URL: https://takamitsu-e.esnet.ed.jp/plugin/blogs/show/1/45/2694
  2. 宇和島市立三間中学校.(2026)6月26日(金)ジャズコンサート. URL: https://ehm-mima-j.esnet.ed.jp/
  3. 文化庁.(2026)学校における文化芸術鑑賞・体験推進事業. URL: https://www.bunka.go.jp/seisaku/geijutsubunka/shinshin/kodomo/
  4. 文部科学省.(2026)芸術系教科・科目の資質・能力の育成等について. URL: https://www.mext.go.jp/content/20260521-mxt_kyoiku01-000049611_2-2.pdf
  5. 文化庁.(2026)令和8年度 文化庁予算の概要. URL: https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/yosan/pdf/94360501_01.pdf
  6. 文化庁.(2025)令和6年度 学校における文化芸術鑑賞・体験推進事業に関する調査研究報告書. URL: https://www.bunka.go.jp/seisaku/geijutsubunka/shinshin/kodomo/ikuseijigyo_kensho/pdf/94196701_01.pdf
  7. 宇和島市学習交流センター パフィオうわじま.(2026)生涯学習センター. URL: https://www.pafiouwajima.jp/learning/
  8. 愛媛新聞.「Jazz 体感 一期一会の音 宇和島 小中学生とプロ 交流授業」2026年6月下旬紙面(公開URL確認できず).

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谷本一真
谷本一真
理学療法士、呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士、PRP-Japan、JFA-B級
PRI(Postural Restoration Institute)コンセプトを基に、障害予防やパフォーマンス向上を目的としたコンディショニング指導を行っています。また、小学生を中心にサッカー指導者としても活動し、子どもたちの心身の成長をサポートさせていただいています。 運動や生活習慣の改善を通じて、健康づくりのサポートに情熱を注いでいます。
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