農業従事者100万人割れから考える日本の食を支える人は何人必要なのか

谷本一真
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主な参考資料:農林水産省大臣官房統計部.(2026)「令和8年農業構造動態調査結果」.

今朝の愛媛新聞で「農業従事者100万人割れ」という記事を読みました。
この数字を見たとき、単に「農家が減った」という話ではなく、日本の人口、食料自給率、地域の農地、そして私たちの暮らし全体に関わる問題として考える必要があると感じました。
この記事では、現在の農業従事者数を整理しながら、「日本に農業を担う人は何人ぐらいいればよいのか」「このまま減少してよいのか」「今後どう考えるべきなのか」を整理してみます。

1. はじめに

今朝の愛媛新聞では、農林水産省が公表した令和8年農業構造動態調査をもとに、農業従事者が100万人を割ったことが報じられていました¹。

ただし、ここで注意したいのは、記事で使われている「農業従事者100万人割れ」は、主に「基幹的農業従事者」の人数を指している点です。

基幹的農業従事者とは、個人経営体の中で「自営農業を主な仕事としている人」のことです²。
つまり、農業法人で働く人や、年間を通じて雇われている人など、農業に関わるすべての人を単純に足した数字ではありません。

それでも、農業を主な仕事として支えている人が100万人を下回ったという事実は、日本の食料供給を考えるうえで、とても大きな節目だと思います。

2. 現在の農業従事者はどれくらいいるのか

農林水産省の令和8年農業構造動態調査によると、2026年2月1日現在の基幹的農業従事者は98万6,600人です²。
前年の103万6,200人から4万9,600人減少し、減少率は4.8%でした²。

一方で、団体経営体の役員・構成員は10万900人、常雇いは24万5,900人とされています²。
このため、「農業に関わる労働力」を少し広く見ると、基幹的農業従事者だけでなく、法人や雇用労働者も含めて考える必要があります。

区分2026年の人数前年比補足
基幹的農業従事者98万6,600人4.8%減個人経営体で自営農業を主な仕事とする人
団体経営体の役員・構成員10万900人2.6%増農業に150日以上従事した役員・構成員
常雇い24万5,900人1.6%増年間7か月以上の契約で雇われた人
農業経営体数79万9,700経営体4.4%減個人経営体は減少、法人経営体は増加

ここから見えるのは、個人で農業を担う人は減っている一方で、法人経営体や常雇いは増えているという構造変化です²。
つまり、日本の農業は「家族単位・個人単位の農業」から、「法人化・雇用型・大規模化を含む農業」へ少しずつ移行していると考えられます。

3. 日本の人口から見ると、農業従事者はどれくらいの割合なのか

総務省統計局の人口推計では、2026年2月1日現在の日本の総人口は1億2,286万人です³。

これに対して、基幹的農業従事者は98万6,600人です²。
単純に計算すると、日本の人口に占める基幹的農業従事者の割合は約0.80%になります。

つまり、現在の日本では、およそ125人に1人が、基幹的農業従事者として農業を主な仕事にしている計算になります。

視点数値意味
日本の総人口約1億2,286万人2026年2月1日現在の概算値
基幹的農業従事者98万6,600人農業を主な仕事とする個人経営体の人
総人口に占める割合約0.80%約125人に1人
15〜64歳人口に占める割合約1.34%働く世代の中でも少数

この数字だけを見ると、「かなり少ない人数で日本の食を支えている」と感じます。
ただし、農業は人数だけで成り立つものではありません。
農地の広さ、作物の種類、機械化、法人化、流通、輸入、備蓄、消費者の食生活など、さまざまな要素が関係します。

4. 「何人いれば足りるのか」は、単純には決められない

「日本の人口に対して、農業従事者は何人ぐらいいればよいのか」という問いは、とても大切だと思います。
しかし、結論から言うと、農業従事者の必要人数を「人口の何%」だけで決めることは難しいです。

なぜなら、農業の必要人数は、次のような要素で大きく変わるからです。

必要人数を左右する要素内容
食料自給率の目標国内でどれだけ食料を作るか
作物の種類米、野菜、果樹、畜産、小麦、大豆などで必要労働量が異なる
農地の集約化小さな農地が分散しているほど手間がかかりやすい
機械化・スマート農業少ない人数でも広い面積を管理しやすくなる
法人化・雇用型農業若い世代が働きやすい形を作れる可能性がある
地域の役割食料生産だけでなく、景観・防災・文化継承も関係する

つまり、「農業従事者が何人いればよいか」は、
「どのくらい国内で食料を作りたいのか」
「どのような農地を残したいのか」
「どのような農業を次世代に残したいのか」
という問いとセットで考える必要があります。

5. 食料自給率から考えると、このまま減少でよいとは言いにくい

農林水産省によると、令和6年度の日本の食料自給率は、カロリーベースで38%、生産額ベースで64%、摂取熱量ベースで46%です⁴。

カロリーベースの38%という数字は、日本で供給されている食料の熱量のうち、国内生産でまかなえている割合を示しています⁴。
農林水産省の説明では、令和6年度のカロリーベース食料自給率は、1人1日当たり国産供給熱量860kcalを、1人1日当たり総供給熱量2,248kcalで割って算出されています⁴。

一方、国の食料・農業・農村基本計画では、2030年度の目標として、供給熱量ベースの食料自給率を45%、生産額ベースを69%、摂取熱量ベースを53%にすることが示されています⁵。

指標現状2030年度目標意味
供給熱量ベース食料自給率38%45%カロリーで見た国内生産の割合
生産額ベース食料自給率64%69%金額で見た国内生産の割合
摂取熱量ベース食料自給率46%53%日常生活に必要な摂取熱量に対する国内生産の割合
飼料自給率27%28%畜産を支える飼料の国内自給割合

この目標を見ると、国としては「国内生産を増やす方向」を示しているといえます⁵。
そのため、農業従事者が減り続けることをそのまま受け入れるだけでは、食料自給率の向上や食料安全保障の面で不安が残ります。

6. 単純計算では、100万人を少し超える水準が一つの目安になるかもしれない

ここからは、あくまで考え方の一例です。
公式な必要人数ではありません。

現在のカロリーベース食料自給率は38%です⁴。
国の2030年度目標は45%です⁵。

もし、現在の農業の生産性がまったく変わらないまま、単純に国内生産を38%から45%へ引き上げると仮定すると、必要な農業労働力も約18%増える計算になります。

ここで、かなり単純に「農業従事者数と食料自給率が比例する」と仮定して考えてみます。
現在、38%を98万6,600人で支えていると考えると、まず1%分を支える人数は、
98万6,600人 ÷ 38 = 約2万5,963人となります。
そして、45%を支えるには、
約2万5,963人 × 45 = 約116万8,000人となります。
つまり、単純計算では、45%を目指す場合、基幹的農業従事者は約117万人程度必要という見方もできます。

ただし、これはあくまで「人数と食料自給率が比例する」と仮定した場合の計算です。実際には、農地の集約化、機械化、スマート農業、作物構成、法人化などによって必要な人数は変わります。

したがって、「農業従事者は最低でも何万人必要」と断定するよりも、
「100万人を切っても大丈夫なのか」
「100万人を切った状態で、どうやって国内生産を維持・向上させるのか」
を考えることが重要だと思います。

7. なぜ農業従事者は減っているのか

農業従事者が減っている大きな理由の一つは、高齢化です。
令和8年調査では、基幹的農業従事者の平均年齢は67.7歳で、75歳以上が35.3%を占めています²。
65歳以上まで広げると、基幹的農業従事者の約70%にのぼります²。

つまり、今の農業は、かなり高齢の方々によって支えられている構造です。
今後10年、20年を考えると、自然な引退によって農業を担う人がさらに減る可能性があります。

農林水産省の資料でも、基幹的農業従事者は2000年の240万人から2025年には104万人へ減少しており、今後10年から20年先を見据えると、さらに少ない経営体で農業生産を支えていく状況になるとされています⁸。

また、後継者不足も大きな課題です。
農林水産省の白書では、5年以内に農業経営を引き継ぐ後継者を確保している経営体の割合は全体で3割未満とされ、規模の小さな経営体ほど後継者確保が難しい状況が示されています⁶。

新規就農者も十分とはいえません。
令和5年の新規就農者数は4万3,460人で前年より減少し、49歳以下の新規就農者も1万5,890人で前年より減少しています⁶。

減少の背景内容
高齢化基幹的農業従事者の平均年齢は67.7歳
75歳以上の割合35.3%
65歳以上の割合約70%
後継者不足後継者を確保している経営体は全体で3割未満
新規就農者の減少令和5年の新規就農者は前年比5.2%減
小規模経営の難しさ小規模な農地ほど継承や収益化が難しくなりやすい

このように考えると、農業従事者の減少は、単に「農業をしたい人が少ない」という話だけではありません。
高齢化、後継者不足、収益性、労働環境、農地の分散、地域人口の減少などが重なって起きている構造的な問題だと考えられます。

8. それでも、法人化や雇用型農業には可能性がある

一方で、暗い話ばかりではありません。
令和8年調査では、個人経営体は減少している一方で、団体経営体や法人経営体は増加しています²。

法人経営体は3万4,600経営体で、前年より2.4%増加しました²。
また、常雇いも24万5,900人で、前年より1.6%増加しています²。

これは、農業が少しずつ「家業」だけでなく、「雇用されて働く職業」としても広がっている可能性を示していると思います。
特に若い世代にとっては、いきなり農地を持ち、機械を買い、経営リスクを背負うよりも、まず法人や農業団体で働きながら経験を積む形のほうが入りやすいかもしれません。

農林水産省の白書でも、法人その他団体経営体では若年層の雇用が進んでいることが示されています⁶。
今後は、農業を「家を継ぐもの」だけにせず、「働く場所」「技術を学ぶ場所」「地域を支える仕事」として設計していくことが重要になりそうです。

9. 今後どうすべきなのか

ここからは、事実を踏まえた考察です。

まず大切なのは、「農業従事者を増やす」だけを目標にしないことだと思います。
もちろん、担い手を増やすことは必要です。
しかし、ただ人数を増やそうとしても、農業で生活できなければ人は定着しません。

必要なのは、次のような視点だと思います。

今後必要な視点内容
農業で生活できる所得適正な価格形成、販路、経営支援が必要
若手が入りやすい仕組み雇用就農、研修、親元就農、法人化の支援
農地の集積・集約化分散した農地を使いやすくする
スマート農業・省力化少ない人数でも生産を維持できる仕組み
地域の小規模農業の価値景観、防災、文化、地域コミュニティも含めて評価する
消費者の理解国産農産物を選ぶ、適正価格を理解する

国の基本計画でも、農地の集積・集約化、スマート農業技術の導入、DXの推進、49歳以下の担い手確保などが掲げられています⁵。
つまり、国も「人数を増やす」だけでなく、「少ない人数でも農業生産を維持できる構造」を作ろうとしていると考えられます。

ただし、ここで注意したいのは、大規模化だけが正解ではないという点です。
中山間地域や果樹地域、小さな田畑が多い地域では、大規模化だけでは守れない農地もあります。
そのような地域では、専業農家、兼業農家、法人、地域住民、行政、消費者が役割を分けながら、農地を守る仕組みが必要になると思います。

10. 農業は「食料」だけでなく「地域」を守っている

農業の価値は、食料を作ることだけではありません。
農林水産省は、農業・農村には多面的機能があると説明しています⁷。

たとえば、水田は雨水を一時的にためることで洪水や土砂崩れを防ぐ役割を持ちます⁷。
また、農村の景観を守ること、生き物を育むこと、文化を継承すること、体験学習や教育の場になることも、農業・農村の大切な役割です⁷。

これは地方に住む私たちにとって、とても身近な問題です。
農地が荒れると、食料生産だけでなく、景観、防災、地域のつながりにも影響が出る可能性があります。

だからこそ、農業従事者の減少は、農家だけの問題ではありません。
地域全体の問題として考える必要があると思います。

11. まとめ

今回の愛媛新聞の記事で報じられた「農業従事者100万人割れ」は、日本の農業が大きな転換点に来ていることを示す数字だと思います¹。

現在、日本の基幹的農業従事者は98万6,600人です²。
日本の総人口1億2,286万人と比べると、農業を主な仕事としている人は約0.80%、約125人に1人という計算になります²³。

一方で、日本の食料自給率はカロリーベースで38%にとどまり、国は2030年度に45%へ引き上げる目標を掲げています⁴⁵。
このことを考えると、農業従事者の減少をそのまま放置してよいとは言いにくいと思います。

ただし、必要なのは「昔のように農家の人数を戻す」ことだけではありません。
農業で生活できる所得、若い世代が入りやすい雇用環境、農地の集約化、スマート農業、地域の小規模農業を支える仕組みなどを組み合わせて考える必要があります。

食料は、毎日の暮らしの土台です。
そして農業は、食料だけでなく、地域の景観、防災、文化も支えています。
農業従事者100万人割れというニュースを、農家だけの問題ではなく、私たちの生活に関わる問題として考えていくことが大切だと思います。

参考文献・参考資料

  1. 愛媛新聞.(2026)「農業従事者100万人割れ」2026年7月1日 朝刊.
  2. 農林水産省.(2026)令和8年農業構造動態調査結果.
  3. 総務省統計局・政府統計の総合窓口e-Stat.(2026)人口推計 2026年(令和8年)2月報.
  4. 農林水産省.(2025)令和6年度食料自給率を公表します.
  5. 農林水産省.(2025)食料・農業・農村基本計画 令和7年4月.
  6. 農林水産省.(2025)第3節 担い手の育成・確保と多様な農業者による農業生産活動.
  7. 農林水産省.(n.d.)農業・農村の有する多面的機能.
  8. 農林水産省.(2026)農業経営をめぐる情勢について.

ABOUT ME
谷本一真
谷本一真
理学療法士、呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士、PRP-Japan、JFA-B級
PRI(Postural Restoration Institute)コンセプトを基に、障害予防やパフォーマンス向上を目的としたコンディショニング指導を行っています。また、小学生を中心にサッカー指導者としても活動し、子どもたちの心身の成長をサポートさせていただいています。 運動や生活習慣の改善を通じて、健康づくりのサポートに情熱を注いでいます。
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