オートファジーとは?細胞の“掃除力”と脳神経の回復可能性を考える

谷本一真
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今回紹介する論文:Eguchi T, Abe M, Tomita T, et al. Reversible suppression of autophagy in a mouse model reveals neuronal resilience. Science. 2026.

メインの論文著者:江口智也(東京大学)、水島昇(東京大学大学院医学系研究科)ら


2026年6月、東京大学の水島昇教授らの研究グループが、オートファジーを再び働かせることで、マウスの神経細胞の異常や脳機能の低下が回復し得ることを報告しました¹²。
「脳神経は一度悪くなると戻らない」と考えられがちですが、今回の研究は、細胞の中の“品質管理”を整えることが、神経細胞の回復力に関係する可能性を示した重要な報告だと感じます。
ただし、これはマウスでの研究であり、現時点で「断食をすれば脳が回復する」「オートファジーを高めれば認知症が治る」と断定できる段階ではありません。

1. オートファジーとは

オートファジーとは、細胞の中で不要になったたんぱく質や傷んだ細胞内小器官を分解し、再利用する仕組みです³。
イメージとしては、細胞の中にある「掃除」「分解」「リサイクル」のシステムです。

私たちの体は、毎日新しいものを作るだけではなく、古くなったものを片づけています。
この片づけがうまくいかないと、細胞の中に異常なたんぱく質や傷んだ構造物がたまり、細胞の働きが低下する可能性があります⁴⁵。

特に脳の神経細胞は、基本的に長く働き続ける細胞です。
そのため、細胞の中をきれいに保つ仕組みは、神経細胞の健康維持にとって重要だと考えられています¹²。

2. 「オート」と「ファジー」の意味

オートファジーは英語で “autophagy” と書きます。
語源はギリシャ語で、「auto」は「自分自身」、「phagein」は「食べる」という意味です³。

言葉意味イメージ
auto自分自身自分の細胞の中のもの
phagein食べる分解して取り込む
autophagy自分を食べる細胞内の不要物を分解・再利用する

つまり、オートファジーは直訳すると「自分を食べる」という意味になります。
少し怖い表現に聞こえるかもしれませんが、実際には細胞が自分の中の不要なものを分解して、必要な材料として再利用する大切な仕組みです³。

3. 今回の東京大学などの研究で何がわかったのか

今回の研究では、オートファジーを神経組織で任意のタイミングでオン・オフできる特殊なマウスが使われました¹²。
オートファジーを一時的に抑えると、神経細胞の中に異常なたんぱく質がたまり、軸索の腫れやシナプスの異常、運動機能や認知機能の低下がみられました¹²。

しかし、その後オートファジーを再び働かせると、たまっていた異常なたんぱく質が分解除去され、運動能力や学習能力も回復したと報告されています¹²。

状態神経細胞の中で起きたこと機能への影響
オートファジーを抑えた状態異常なたんぱく質の蓄積、軸索やシナプスの異常運動機能・認知機能が低下
オートファジーを再び働かせた状態異常なたんぱく質が分解・除去運動機能・学習能力が回復

この研究の大切な点は、「神経機能の低下を防ぐ」だけではなく、「一度低下した神経機能が回復し得る」という視点を示したことだと思います²。
これは、アルツハイマー病やパーキンソン病など、異常なたんぱく質の蓄積が関係する神経変性疾患の治療研究につながる可能性があります⁴。

4. ただし、人間の治療法として確立したわけではない

ここはとても大切です。
今回の研究はマウスを使った基礎研究であり、人間に対して「オートファジーを操作すれば脳神経が回復する」と断定できるものではありません。

また、オートファジーは単純に「強ければ強いほどよい」という仕組みではありません。
オートファジーは細胞を守る方向に働くことがありますが、病気の種類や細胞の状態によっては、複雑な働きをすることも知られています⁴⁵。

そのため、現時点で私たちが理解しておきたいのは、
「オートファジーを無理に高めよう」ではなく、
「細胞の中には、不要なものを片づける仕組みがあり、その働きが健康や脳機能に関係している可能性がある」
ということだと思います。

5. 日常生活で意識できること

オートファジーという言葉を聞くと、「断食」「空腹時間」「ファスティング」を連想する方も多いと思います。
たしかに、栄養が少ない状態では、細胞が内部の材料を再利用する方向に働くことが知られています³⁹。

しかし、一般の方が日常生活で極端な断食を行うことはおすすめできません。
特に、糖尿病の薬を使っている方、妊娠中・授乳中の方、成長期の子ども、摂食障害の既往がある方、体重が少ない方は注意が必要です⁹。

日常生活で意識するなら、まずは次のような現実的な方法がよいと思います。

意識したいこと理由
夜遅い間食を減らす胃腸や代謝のリズムを整えやすい
睡眠時間を確保する体の回復や脳の整理に関係する
無理のない運動を続ける筋肉・代謝・脳の健康に関係する
たんぱく質を極端に減らさない筋肉や身体機能の維持に必要
極端な断食を避ける低血糖、筋肉量低下、体調不良のリスクがある

大切なのは、「オートファジーを上げるために生活を削る」のではなく、「体が本来持っている回復の仕組みが働きやすい生活を整える」という考え方です。

6. 運動とオートファジー

運動とオートファジーの関係についても研究されています。
動物実験では、運動によって骨格筋や心筋でオートファジーが誘導されること、また運動による代謝改善にオートファジーが関係する可能性が報告されています⁶。
さらに、マウスの研究では、運動が脳の一部でもオートファジーを誘導する可能性が示されています⁷。

ただし、人間の日常生活で「この運動をすれば脳のオートファジーが何%上がる」と測定することは簡単ではありません。
そのため、現場で大切にしたいのは、オートファジーという一つの言葉に偏りすぎず、運動が体全体の健康に与える効果を広く見ることだと思います。

WHOは、身体活動は心血管疾患、糖尿病、がん、メンタルヘルス、認知機能、睡眠など幅広い健康と関係するとしています⁸。
つまり、運動は「細胞の掃除」だけでなく、血流、筋肉、代謝、睡眠、気分、脳機能など、さまざまな面から体を支えていると考えられます。

7. 理学療法士としての視点

理学療法士として今回の研究を読むと、「細胞の中の品質管理」と「身体機能の回復」は、別々の話ではないのかもしれないと感じます。

私たちは普段、筋力、関節可動域、姿勢、歩行、バランス、呼吸などを見ます。
しかし、その背景には、筋肉や神経、細胞の代謝、たんぱく質の入れ替わりといった、目に見えにくい仕組みがあります。

運動は、単に筋肉を強くするだけではありません。
体に適切な刺激を入れることで、細胞が環境に適応し、不要なものを片づけ、新しく作り替える方向に働く可能性があります⁶⁷。

だからこそ、運動は「きついことをすればよい」のではなく、
その人に合った強度、頻度、回復時間を考えながら続けることが大切だと思います。

8. まとめ

オートファジーは、細胞の中の不要なたんぱく質や傷んだ構造物を分解し、再利用する仕組みです³。
今回の東京大学などの研究では、マウスにおいてオートファジーを再び働かせることで、神経細胞の異常や運動・認知機能の低下が回復し得ることが示されました¹²。

これは、神経細胞にも「回復力」がある可能性を示す、とても興味深い研究です。
一方で、現時点ではマウスの研究であり、人間の認知症やパーキンソン病の治療法として確立したものではありません。

日常生活で大切なのは、極端な断食や特別な方法に飛びつくことではなく、
睡眠、栄養、適度な運動、生活リズムを整え、体が本来持っている回復の仕組みを支えることだと思います。

オートファジーという言葉は少し専門的ですが、言い換えれば「細胞の中を整える力」です。
体を動かすこと、食べすぎを避けること、しっかり休むこと。
そうした日々の積み重ねが、細胞レベルの健康にもつながっているのかもしれません。

参考文献・参考資料

  1. Eguchi T, Abe M, Tomita T, Morishita H, Saeki Y, Sakimura K, Tanaka K, Mizushima N.(2026)Reversible suppression of autophagy in a mouse model reveals neuronal resilience. Science.
  2. 東京大学・科学技術振興機構.(2026)神経細胞の品質低下に起因する脳機能障害からの回復 〜オートファジーの再活性化による神経細胞の回復力を実証〜.
  3. The Nobel Prize.(2016)The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2016 – Press release.
  4. Mizushima N, Levine B.(2020)Autophagy in Human Diseases. New England Journal of Medicine, 383(16), 1564-1576.
  5. Mizushima N, Levine B, Cuervo AM, Klionsky DJ.(2008)Autophagy fights disease through cellular self-digestion. Nature, 451, 1069-1075.
  6. He C, Bassik MC, Moresi V, et al.(2012)Exercise-induced BCL2-regulated autophagy is required for muscle glucose homeostasis. Nature, 481(7382), 511-515.
  7. He C, Sumpter R Jr, Levine B.(2012)Exercise induces autophagy in peripheral tissues and in the brain. Autophagy, 8(10), 1548-1551.
  8. World Health Organization.(2024)Physical activity.
  9. Dietitians Australia.(2026)Intermittent fasting.

ABOUT ME
谷本一真
谷本一真
理学療法士、呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士、PRP-Japan、JFA-B級
PRI(Postural Restoration Institute)コンセプトを基に、障害予防やパフォーマンス向上を目的としたコンディショニング指導を行っています。また、小学生を中心にサッカー指導者としても活動し、子どもたちの心身の成長をサポートさせていただいています。 運動や生活習慣の改善を通じて、健康づくりのサポートに情熱を注いでいます。
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