良い人生をつくるのは「お金」より「人間関係」なのか――TED動画を一次情報から確かめてみました
「幸せな人生をつくるのは何か」と聞かれると、お金や成功、社会的地位を思い浮かべる方も多いかもしれません。
私もYouTubeで、ロバート・ウォールディンガー氏のTED講演
「What makes a good life? Lessons from the longest study on happiness」
を見て、とても印象に残りました。
この講演では、長年にわたるハーバードの研究をもとに、良い人生を支える中心には「良い人間関係」があると語られています。
今回は、この主張がどこまで一次情報や公的機関の資料で裏づけられるのかを調べてみました。
TED動画では何が語られているのか
講演の中心メッセージは、とてもシンプルです。
それは、人を長く健康で、より幸せにするのは、富や名声よりも「良い関係性」である、というものです。
特に印象的だったのは、
「孤独は体にも心にもよくない」
「人とのつながりの“数”より“質”が大切」
「50歳ごろの関係満足が、のちの健康と関わっていた」
という点でした。
一般向けの講演なので表現はわかりやすく整理されていますが、方向性としてはとても重要な内容だと感じました。
動画はこちらです。
YouTube動画
https://www.youtube.com/watch?v=8KkKuTCFvzI
TED公式ページはこちらです。
TED公式ページ
https://www.ted.com/talks/robert_waldinger_what_makes_a_good_life_lessons_from_the_longest_study_on_happiness
一次情報で見るハーバード研究の中身
この講演の土台になっているのは、Harvard Study of Adult Developmentです。
公式サイトによると、この研究は1938年に始まり、268人のハーバード卒男性と456人のボストンの男性を長期間追跡してきた縦断研究です。
後に妻や子どもの世代にも研究対象が広がっていますが、初期の主要データは男性中心でした。
そのため、とても貴重な研究である一方で、結果の一般化には注意が必要ともいえそうです。
公式サイトはこちらです。
Harvard Study of Adult Development(公式サイト)
https://www.adultdevelopmentstudy.org/grantandglueckstudy
また、Harvard Gazetteの記事では、研究の総括として、近しい関係は金銭や名声以上に、幸福や健康と深く関係していたと紹介されています。
さらに、50歳時点で関係に満足していた人ほど、80歳時点で健康だったという表現も、研究責任者の言葉として掲載されています。
Harvard Gazetteの記事はこちらです。
Mineo, L.(2017)「Good genes are nice, but joy is better」Harvard Gazette.
https://news.harvard.edu/gazette/story/2017/04/over-nearly-80-years-harvard-study-has-been-showing-how-to-live-a-healthy-and-happy-life/
孤独や社会的孤立は本当に健康に悪いのか
この点については、ハーバード研究だけでなく、より広い研究でも支持されています。
たとえば、PLOS Medicineに掲載されたメタ解析では、148研究・308,849人のデータを統合し、社会的関係が強い人は生存の可能性が50%高かったと報告されています。
この結果を見ると、「人とのつながり」は気持ちの問題だけではなく、健康や寿命とも深く関係している可能性があると考えさせられます。
論文はこちらです。
Holt-Lunstad, J., Smith, T. B., Layton, J. B.(2010)「Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review」『PLOS Medicine』7(7), e1000316.
https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1000316
また、CDCでは、社会的孤立や孤独が心疾患、脳卒中、2型糖尿病、うつ、不安、認知症、早期死亡のリスク上昇と関連すると整理されています。
さらに、WHOでも、社会的孤立と孤独は、身体・精神の健康、生活の質、寿命に深刻な影響を及ぼすとされています。
CDCの情報はこちらです。
CDC(2024)「Health Effects of Social Isolation and Loneliness」
https://www.cdc.gov/social-connectedness/risk-factors/index.html
WHOの情報はこちらです。
WHO「Social Isolation and Loneliness」
https://www.who.int/teams/social-determinants-of-health/demographic-change-and-healthy-ageing/social-isolation-and-loneliness
「人間関係の質」が大切という話は本当か
この点も、かなり納得できる根拠があります。
Waldingerらの論文では、高齢者において、ただ結婚しているかどうかだけではなく、関係満足や一緒に過ごす時間、近しい関係の質が日々の幸福感と関わることが示されています。
つまり、「知り合いが多いかどうか」よりも、「安心できる関係があるか」「頼れる相手がいるか」の方が大切だと考える方が、研究全体の流れには合っていそうです。
論文はこちらです。
Waldinger, R. J., Schulz, M. S.(2010)「What’s Love Got To Do With It?: Social Functioning, Perceived Health, and Daily Happiness in Married Octogenarians」『Psychology and Aging』25(2), 422–431.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2896234/
ただし、この動画をそのまま断定的に受け取らない方がよい理由
とても良い講演ですが、医学・研究の視点では少し慎重に見ておきたい点もあります。
ひとつは、これらの研究の多くが観察研究であることです。
つまり、良い人間関係が健康を高めている可能性はありますが、もともと健康的な生活習慣や精神状態を持つ人の方が、良い人間関係も築きやすい、という影響が混ざっている可能性もあります。
実際、1998年のVaillantらの研究では、50〜70歳の社会的支援は70歳時点の身体健康と強く相関していましたが、その社会的支援自体が喫煙、アルコール乱用、うつ指標とも関係しており、これらを調整すると関連はかなり弱まったと報告されています。
このあたりは、とても大事な視点だと感じました。
論文はこちらです。
Vaillant, G. E., Meyer, S. E., Mukamal, K., Soldz, S.(1998)「Are social supports in late midlife a cause or a result of successful physical aging?」『Psychological Medicine』28(5), 1159–1168.
https://www.cambridge.org/core/journals/psychological-medicine/article/are-social-supports-in-late-midlife-a-cause-or-a-result-of-successful-physical-ageing/D1DA2FD28A3E3417ADEACE3994C630E1
それでも、この動画から学べること
それでも私は、この動画のメッセージには大きな価値があると思います。
なぜなら、健康づくりというと、運動、栄養、睡眠、禁煙といった要素に意識が向きやすい一方で、人とのつながりそのものも健康資源になりうる、という視点を思い出させてくれるからです。
もちろん、無理に人付き合いを増やせばよいという話ではないと思います。
研究全体を見ると、大切なのは「数」よりも、信頼できる関係、安心できる関係、困ったときに頼れる関係のようです。
そう考えると、健康づくりの中に「関係性を整える」という視点を入れることには、一定の意味があるのではないかと感じました。
まとめ
今回のTED動画の主張は、一次情報や公的機関の情報を踏まえてみても、大筋では妥当といえそうです。
ただし、厳密には、
「良い人間関係は健康や幸福と強く関連する」
「孤独や社会的孤立は健康リスクになりうる」
という表現で受け取る方が、研究的にはより正確だと思います。
健康を考えるとき、身体だけでなく、日々のつながりや安心できる関係も含めて見直していくことは、思っている以上に大切なのかもしれません。
参考文献
- Waldinger, R. J.(2015)「What makes a good life? Lessons from the longest study on happiness」TED.
https://www.ted.com/talks/robert_waldinger_what_makes_a_good_life_lessons_from_the_longest_study_on_happiness
https://www.youtube.com/watch?v=8KkKuTCFvzI - Harvard Study of Adult Development(公式サイト)
https://www.adultdevelopmentstudy.org/grantandglueckstudy - Mineo, L.(2017)「Good genes are nice, but joy is better」Harvard Gazette.
https://news.harvard.edu/gazette/story/2017/04/over-nearly-80-years-harvard-study-has-been-showing-how-to-live-a-healthy-and-happy-life/ - Holt-Lunstad, J., Smith, T. B., Layton, J. B.(2010)「Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review」『PLOS Medicine』7(7), e1000316.
https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1000316 - CDC(2024)「Health Effects of Social Isolation and Loneliness」
https://www.cdc.gov/social-connectedness/risk-factors/index.html - WHO「Social Isolation and Loneliness」
https://www.who.int/teams/social-determinants-of-health/demographic-change-and-healthy-ageing/social-isolation-and-loneliness - Waldinger, R. J., Schulz, M. S.(2010)「What’s Love Got To Do With It?: Social Functioning, Perceived Health, and Daily Happiness in Married Octogenarians」『Psychology and Aging』25(2), 422–431.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2896234/ - Vaillant, G. E., Meyer, S. E., Mukamal, K., Soldz, S.(1998)「Are social supports in late midlife a cause or a result of successful physical aging?」『Psychological Medicine』28(5), 1159–1168.
https://www.cambridge.org/core/journals/psychological-medicine/article/are-social-supports-in-late-midlife-a-cause-or-a-result-of-successful-physical-ageing/D1DA2FD28A3E3417ADEACE3994C630E1 - Waldinger, R. J., Cohen, S., Schulz, M. S., Crowell, J. A.(2015)「Security of attachment to spouses in late life: Concurrent and prospective links with cognitive and emotional wellbeing」『Clinical Psychological Science』3(4), 516–529.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4579537/

