AWGS2025で注目される「ダイナペニア」という考え方
― サルコペニアとの違いと現場での意味 ―
はじめに
近年、サルコペニアに関連する議論の中で
「ダイナペニア(dynapenia)」 という言葉を目にする機会が増えています。
2025年に発表された AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)2025 コンセンサス でも、
「筋力低下」をこれまで以上に重視する方向性が示されました。
本記事では、
- ダイナペニアとは何か
- サルコペニアとの違い
- AWGS2025でどのように位置づけられているのか
について、一次情報をもとに整理します。
ダイナペニアとは何か
ダイナペニア(dynapenia)とは、
筋量の低下を必ずしも伴わない「筋力低下」
を指す概念です。
この考え方は、2008年に Clark らによって提唱されました。
原著論文
この論文では、
- 筋力低下は
筋萎縮(筋量低下)だけでは説明できない - 神経系の要因や動員効率の低下も大きく関与する
と述べられています。
サルコペニアとの違い
サルコペニアは、国際的にも診断基準が整備されている概念です。
概念の整理
| 項目 | ダイナペニア | サルコペニア |
|---|---|---|
| 主な焦点 | 筋力 | 筋量+筋力 |
| 筋量低下 | 必須ではない | 必須 |
| 主な原因 | 神経系・協調性など | 筋萎縮 |
| 診断基準 | なし(概念) | あり(AWGSなど) |
ダイナペニアは 診断名ではなく概念 であり、
サルコペニアは 診断基準を伴う疾患概念 という点が大きな違いです。
AWGS2025の概要
2025年、AWGSは新たなコンセンサスを発表しました。
原著論文
- Asian Working Group for Sarcopenia (2025).
A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update.
Nature Aging.
https://www.nature.com/articles/s43587-025-01004-y
URL:https://www.nature.com/articles/s43587-025-01004-y
この論文では、タイトルにもある通り
「サルコペニアから筋の健康(muscle health)へ」
という視点の転換が示されています。
AWGS2025で何が変わったのか
AWGS2025では、以下の点が特徴として挙げられます。
- 筋力評価の重要性がより強調された
- 身体機能(歩行速度など)は
診断要件ではなくアウトカム指標として整理 - 50〜64歳の中年期も評価対象に含めた
- 早期段階からの介入を意識した構造
一方で、
「ダイナペニア」という用語を
新たな診断名として正式に定義したわけではありません。
この点は、誤解されやすいため注意が必要です。
ダイナペニアとAWGS2025の関係
AWGS2025では、
- 筋量低下が明確でなくても
- 筋力低下そのものが重要な問題である
という考え方が、これまで以上に前面に出ています。
そのため、
- 用語としては「ダイナペニア」を採用していない
- しかし
思想としてはダイナペニア的視点を強く内包している
と解釈するのが、現時点では最も妥当と考えられます。
現場(運動指導・介護予防)での意味
例えば、
- 握力が低下している
- しかし筋量(SMI)は保たれている
- 立ち上がり動作や協調性に課題がある
このようなケースは、
「サルコペニアではないが、筋力低下は進行している状態」
と説明できます。
AWGS2025の考え方は、
この段階での 早期介入の重要性 を後押しするものと考えられます。
まとめ
- ダイナペニアは
筋量低下を伴わない筋力低下 を表す概念 - AWGS2025では
ダイナペニアを正式な診断名としては採用していない - しかし
筋力低下を重視する思想は、AWGS2025で明確に強化された
今後は、「サルコペニアか否か」だけでなく、
筋力低下の段階でどのように関わるか が
より重要になっていくと考えられます。
参考資料・参考文献
- Asian Working Group for Sarcopenia (2025).
A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update.
Nature Aging. - Clark BC, Manini TM. (2008).
Sarcopenia ≠ Dynapenia.
Journal of Gerontology: Medical Sciences, 63(8), 829–834.

