伊達博物館の老朽化と移設計画の背景
宇和島市立伊達博物館(以下、伊達博物館)は1974年開館以来、宇和島藩主伊達家に伝わる貴重な文化財を収蔵・展示してきました。
しかし半世紀を経て施設の老朽化が著しく、耐震性の不足も指摘されたことから、市は博物館の建て替え(改築)を決断しました。
平成31年(2019年)3月には、市議会議員や自治会・商工会議所等の代表、市職員らで構成される「伊達博物館建替委員会」が設置され、広く市民の意見を反映しながら新博物館計画の検討が始められたとされているようです。
新博物館の立地候補と選定過程
当初、新博物館の建設候補地としては現在地と天赦公園内の2案が検討されました。建替委員会による調査の結果、いずれも一定の条件を満たす用地として浮上しましたが、市は最終的に天赦公園内に移転新築する方針を決定しました。この決定に至った主な理由は次のとおりとされています。
- 天赦園との一体整備・景観向上: 天赦公園内(伊達家の庭園「天赦園」に隣接)に移設することで、旧博物館敷地も含めた「伊達文化エリア」として一体的な整備が可能になり、新博物館を地域の新たなまちづくりと景観美の象徴とする基本理念をより具体化できるとされました。
- 視認性・ランドマーク性: 開放的な公園内に建設することで建物の視認性が高まり、宇和島城や天赦園とあいまって街のランドマークとして機能し得る点も評価されたとされています。
- 工期中の継続運営: 天赦公園隣接地であれば現博物館を営業しながら隣で新築工事を進められるため、休館期間を最小限に抑えられる利点があるとされました。これにより市民や観光客への影響を減らし、博物館資料の閲覧機会を途切れさせないメリットが指摘されています。
- 資料移転リスクの低減: 現地建て替えの場合は所蔵資料を一時退避させる必要がありますが、隣接地への移転新築であれば引っ越しは一度で済みます。その結果、資料を仮保管する際の破損リスクや二度搬送するコストを大幅に軽減でき、安全かつ効率的に収蔵品を移せるとされました。
- 災害安全性の比較: 防災面では「現在地のほうが若干有利」との指摘もありましたが、場所が隣接しているため実質的な差異は小さいと判断されました。事前に地盤調査を行い安全性を確保したうえで設計・建設を進める方針が示され、立地条件として許容範囲内であると確認されたようです。
以上の検討結果を踏まえ、市は天赦公園西側の遊具広場(約2,300㎡)跡地を新博物館の建設用地に充てることを正式決定しました。
現博物館は新館完成まで存置され、開館50年を迎えた建物は新館開業後に解体される予定です。その跡地は児童向けの公園(遊具広場)として再整備され、隣接する天赦園と一体化した憩いの場になる計画とされているようです。
建築デザインの候補と設計者の選定
新博物館の基本構想がまとまると、市は**建築設計者の公募型プロポーザル(設計競技)**を実施しました。令和3年(2021年)6月から応募要項を公開し、全国から複数の建築事務所が参加資格を得た中で、書類審査とプレゼンテーション審査の二段階で提案内容の評価が行われました。
審査委員会には建築や文化行政の有識者が加わり、デザインのコンセプト、周辺環境との調和、機能配置やコストの妥当性、実績など様々な評価基準に沿って慎重な比較検討がなされたとされます。
その結果、隈研吾建築都市設計事務所(隈研吾氏)による提案が最も高い評価点を獲得し、令和3年9月3日の審査会で優先交渉権者(受託候補者)に特定されました。
応募のあった他の候補には、
石本建築事務所
岡田新一設計事務所
遠藤克彦建築研究所
シーラカンスアンドアソシエイツ
など全国的にも著名な建築設計事務所が名を連ねていました。
最終プレゼンテーションに進んだ5者の中で隈研吾氏の提案が総合トップの評価点582.2点を獲得し、次点と僅差ながら首位となったことが公表されています。
隈氏の設計案は「自然にも歴史にも恵まれた全国でも他にない立地」を最大限に活かすデザインであるといい、安全祈願祭の席上で「宇和島に多くの人を惹きつける大きな磁石のような存在にしたい」と抱負が語られています。
併せて展示内容の充実を図るため、館内の展示設計についても別途プロポーザルが行われ、博物館や美術館の展示計画で実績豊富な株式会社丹青社の提案が採用されています。
建物の基本・実施設計は隈研吾氏の事務所が担当し、展示デザインは丹青社が手がける形で新博物館の具体的な設計作業が進められました。
その後、令和4年(2022年)7月までに実施設計が完了し、建物は鉄筋コンクリート造地上2階建て、延べ床面積約4,000㎡規模のモダンな施設として計画されています。
なお展示室や収蔵庫など主要機能は地盤面から5m以上の高さに配置され、津波・水害への備えも盛り込まれているとされているようです。
市議会での議論と最終的な事業決定
新伊達博物館の計画は、市議会においても逐次議論・審議されてきました。基本計画策定後の令和3年度には設計委託料等を盛り込んだ予算案が審議され、市議会で了承されています。
さらに令和4年から令和5年にかけては建設工事費に関する議論が大きな焦点となりました。基本設計段階で総事業費約40億円と見込まれていた建設費は、その後の物価高騰や資材費・人件費の上昇により見積額が膨らみ、令和5年(2023年)には約59.3億円(関連整備含む)と当初見込みの約1.3倍に達する試算が示されています。
この財源措置として国の補助金等の活用により、市の負担分は約13~14億円程度に抑えられる見通しも報告されました。
こうした増額に対応するため、宇和島市は令和5年9月市議会に建設費の債務負担行為を増額補正する議案を提出し、可決を経て改めて工事契約手続きに入っています。
市議会としても事業費の妥当性や財政負担について真剣な質疑が交わされましたが、最終的には郷土の文化財を将来に伝える拠点整備は必要な投資との認識で一致し、事業推進が了承されたとされているようです。
一方で、市民からは計画の進め方に対する異論や不安の声も上がっており、その代表例が住民投票の請求でした。
令和5年6月、ある市民グループが「巨額の建設費を伴う計画の是非を問いたい」として住民投票条例制定を直接請求し、必要法定数を大幅に上回る署名3,674筆を宇和島市に提出しました。
これを受け市議会でも同年7月3日に臨時議案として審議が行われましたが、岡原文彰市長は「新しい博物館建設は将来への必要投資であり、住民投票は不要」との見解を表明し、市議会も賛成多数で条例案を否決しました。
市民グループ側は議会の判断を「有効署名数を無視したもの」と批判しつつも法的措置に訴える動きは見せず、その後も計画変更を求める要望活動を続ける方針が示されています。
市長は「今後も丁寧な説明に努めたい」と述べ、市として計画推進に理解を求めつつ事業を進める考えを強調しました。
このように市議会では賛否両論の意見が出されましたが、最終的には伊達博物館改築事業を予定通り進めることが公式に確認された形となっています。
おわりに:新博物館への期待
2025年4月、新博物館建設予定地の天赦公園で安全祈願祭(起工式)が執り行われ、世界的建築家である隈研吾氏自身も参列しました。
隈氏は「宇和島の素晴らしさを全国や海外の人々に知ってもらうきっかけになる施設にしたい」と語り、その設計にかける意気込みを示したとされています。
工事は当初計画より遅れが生じたものの、2026年度中の工事完了、令和10年(2028年)春の開館を目指して現在着々と進められています。
開館後は旧館の解体と児童公園の整備も予定されており、市民に親しまれる文化ゾーンとして新生「伊達博物館」が地域活性化の拠点となることが期待されているようです。
新しい博物館が宇和島の歴史と文化を未来へ伝える象徴施設として、末永く市民に愛される存在となることが望まれているようです。
参考資料
- 藤家秀一 (2021) 「宇和島の新伊達博物館、隈研吾事務所が設計へ 26年度の開館めざす」 朝日新聞 (朝日新聞デジタル)
- 中川壮 (2025) 「「自然・歴史に恵まれた立地」隈氏 新伊達博物館安全祈願祭 宇和島」 朝日新聞 (朝日新聞デジタル)
- 宇和島市教育委員会 (2020) 『伊達博物館改築事業 基本計画(案)』
- 宇和島市 (2023) 「伊達博物館建替委員会 会議録の公開について」宇和島市公式サイト
- 宇和島市 (2025) 「伊達博物館改築事業の概要」宇和島市公式サイト
- あいテレビ (2023) 「市立伊達博物館新設の賛否問う住民投票条例案 宇和島市議会が否決」 Nスタえひめ (TBS NEWS DIG)
- あいテレビ (2025) 「建築家・隈研吾さん『こんな素敵な場所が日本にあったのだと知っていただくきっかけに』伊達博物館が老朽化 建て替え工事で起工式」 Nスタえひめ (TBS NEWS DIG)

