運動習慣が小中学生にとって大切な理由――科学的根拠に基づく6つの視点

谷本一真
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

近年、子どもの運動不足が心配されていますが、実際に運動習慣にはどのような重要な意味があるのか調べました。

本記事では、小中学生の子どもにとって運動習慣がなぜ重要なのかを、姿勢脳機能社会性学業成績睡眠メンタルヘルスという6つの観点から、科学的エビデンスに基づいて調べました。

姿勢への影響

子どもの成長期は姿勢の発達にとって非常に重要な時期です。運動によって体幹(コア)筋肉が鍛えられると、背骨や頭蓋骨をバランスよく保つ力(姿勢保持能力)が向上します。実際、日常的に運動している子どもは、座りがちな子どもよりも姿勢を安定して保つバランス能力が高いことが研究で報告されています。体を動かす習慣があることで、成長過程で正しい姿勢を身につけやすくなると考えられます。

さらに、運動による全身の筋力には姿勢の歪みを予防したり柔軟性を維持する効果も期待できます。

例えば、筋力や運動能力が高い子どもほど、頭や背骨・脚のラインがよりまっすぐに整った姿勢を示す傾向があるとの報告があります。一方で肥満傾向にある子どもは頭が前に出たり背中が丸くなる(猫背)姿勢になりやすいですが、体力が高ければ体重の影響を上回って姿勢を良好に保てる場合もあることが示されています。

つまり、日頃の運動で体幹や筋肉をしっかり発達させておくことは、正しい姿勢の維持や将来の腰痛・肩こり予防にもつながると期待できます。

脳機能への影響

子どもの脳は発達盛んな時期であり、運動はその健全な発達を多方面からサポートします。身体を動かすと血流が良くなり、脳由来神経栄養因子(BDNF)など脳の神経を育てる物質が分泌されます。

このBDNFは神経可塑性(脳が新しい神経回路を作ったり強化したりする柔軟性)を高め、記憶力や学習能力を向上させることが知られています。

実際、運動によって脳内で新しいニューロン(神経細胞)が生まれたり、記憶・学習に関わる脳の領域で神経のつながりが強化されることが報告されています。

子どもの頃にこうした変化が促されることで、脳の発達に良い影響をもたらすと考えられます。

また、運動習慣は認知機能(考える力)や集中力の向上にも関連しています。いくつかの研究では、定期的に運動する子どもの方が注意力や実行機能(計画立案や自己コントロール能力など)が高い傾向が示されています。実際の介入研究(ランダム化試験)のメタ分析でも、少なくとも週に1回・1か月以上の継続的な運動プログラムによって子どもの抑制力など実行機能がわずかに改善したとの結果が報告されています。

効果の程度は小さいものの、有意な改善が認められており、運動が子どもの認知発達を支える一助となる可能性があります。総じて、遊びやスポーツで体を動かすことは、子どもの脳に良い刺激を与え、記憶力や集中力アップに寄与しうると考えられています。

社会性の発達

子どもの社会性(ソーシャルスキル)を育む上でも運動やスポーツは大きな役割を果たします。特にチームで行うスポーツ活動では、仲間と協力する力やコミュニケーション能力が自然と養われます。

実際、スポーツなど身体活動に参加した子どもは、思いやりや助け合いといった「向社会的行動(他者の利益や幸福を促進するために、自発的かつ意図的に行われる行動」が向上することが体系的レビューで示されています。

体を動かしながら協力する経験を積むことで、人と関わる力やルールを守る態度が育ち、集団の中で適応する力が高まると考えられます。この効果は発達障害など特別な支援を必要とする子どもにも認められており、スポーツを通じた社会性の向上は幅広い子どもたちに有益とされています。

また、運動習慣は**子どもの自己肯定感(自分に対する肯定的な感情)**にも良い影響を与える傾向があります。身体を動かすことで「できること」が増えたり目標を達成する成功体験を重ねると、自信が育まれます。

研究でも、運動プログラムへの参加によって子どもの自己概念や自己価値感が向上したとの報告があります。あるメタ分析では、運動のみの介入によって自己評価が有意に高まったことが示され、特に学校や体育館で行われる運動だと効果が大きい可能性が指摘されています。

このように、適度な運動は子どもの心に達成感と自信をもたらし、健全な自己肯定感の発達につながると期待できます。

学業成績への影響

「運動すると勉強がおろそかになるのでは?」と心配する保護者の方もいるかもしれません。しかし現在のエビデンスを見る限り、適度な運動は学業成績(学力)を損なうどころかプラスに作用する可能性が指摘されています。

多くの研究で、身体をよく動かす子どもほど学業成績が良好である傾向が報告されています。2023年の系統的レビューでは、週90分以上の中~高強度の身体活動を行う児童は、そうでない児童に比べて学業成績が向上する関連がみられたと結論づけられています。

運動によって脳への血流や覚醒度が高まり、授業への集中力が増すことなどが背景にあるかもしれません。重要な点は、運動しても成績が悪くなることはなく、むしろ向上しうるという点で、適度な運動は勉強の「敵」ではなく「味方」と言えそうです。

もっとも、運動と学力の因果関係は単純ではなく、研究結果にはばらつきもあります。最新のメタ分析によれば、運動それ自体が直接テストの点数を大幅に押し上げるわけではないものの、小さなプラス効果は確認されています。

特に、有資格の指導者による十分な強度の運動プログラムを取り入れた場合に、成績への好影響がやや大きく現れることが報告されています。

一方で、運動の強度が低かったり指導の質が確保されない場合、学力への有益な変化は明確に現れないこともあります。つまり、運動が学業成績に与える影響は「適切な運動の量・質」によって左右されるようです。総合すると、運動習慣は子どもの学習を妨げるどころか適切な形で取り入れれば学業面でもプラスに働く可能性があり、今後もその因果関係についてさらなる研究が進められています。

睡眠への影響

十分な睡眠は成長期の子どもの心身の発達に不可欠ですが、運動習慣はこの「眠り」の質と量にも好影響をもたらします。日中に体をしっかり動かすと体温リズムが整い、夜には心地よい疲労感から入眠しやすくなると考えられます。

実際、身体活動が活発な子どもほど、夜の寝つきが良く睡眠の質も高い傾向が報告されています。あるメタ分析では、全体としては様々な年齢層で運動と睡眠の関連にばらつきが見られたものの、子ども(おおむね12歳以下)のグループでは運動による睡眠質の向上が統計的に有意であったとされています。

特に中程度の強度の運動が子どもの睡眠改善には効果的で、激しすぎる運動ではかえって交感神経が高ぶってしまう可能性が指摘されています。適度に体を動かした日は「ぐっすり眠れた!」という実感をお持ちの親御さんも多いかもしれませんが、科学的にもその傾向が裏付けられつつあります。ただし研究数はまだ限られているため、今後さらに詳しいメカニズムの解明が望まれています。

メンタルヘルスへの影響

運動にはストレス発散の効果がある、と昔から言われますが、子どものメンタルヘルス(心の健康)に対しても運動習慣は重要な意義を持ちます。近年の研究は、運動が子どもの不安や抑うつ傾向を緩和し、ストレス耐性を高める可能性を示しています。

身体を動かすことで脳内にエンドルフィンなどの「気分を良くする物質」が放出され、気持ちが前向きになる効果が考えられます。また、運動を通じて日々の鬱屈した気分をリセットしたり、屋外活動で太陽光を浴びること自体が気分改善に寄与するとの指摘もあります。

実際、身体活動は子どもの不安感や抑うつ症状、自己評価の低さ、ストレス反応などを幅広く改善しうることが複数の研究レビューで報告されています。

特に注目なのは、近年発表された大規模な統合解析の結果です。2025年の包括的なレビュー研究(メタ・メタ分析)では、定期的な運動によって子どもや青年のうつ症状と不安症状がともに有意に減少することが明らかになりました。効果量としては中等度で、例えば12週間未満の運動プログラムでも抑うつ症状が改善し、筋トレを含む運動は不安の軽減に特に有効だったとされています。参加者は健常児からうつ病など臨床状態にある子まで含まれていましたが、概ねどのグループでも運動の恩恵が認められています。

これらの知見は、運動を子どものメンタルヘルスケアに積極的に取り入れる価値を示唆するものです。ただ、メンタルヘルスに関しては運動だけですべてが解決するわけではなく、専門家の支援や生活環境など総合的なケアの一環として運動を位置づけることが望ましいでしょう。

まとめ

以上のように、運動習慣は子どもの体と心に多面的なメリットをもたらす可能性があります。姿勢を良くし、脳の発達を促し、社会性や自己肯定感を育み、学業にもプラスに働き、睡眠の質を高め、メンタルヘルスを支える――まさに全身全霊に良い影響を及ぼしうるのです。

ただし個人差もあり、無理な運動は逆効果になりかねません。大切なのは、子ども自身が楽しみながら体を動かせる機会を日常に取り入れることです。

例えば、友達と思いきり遊ぶ時間や、好きなスポーツに打ち込む環境を用意してあげると良いでしょう。運動習慣の定着には周囲の大人のサポートも欠かせません。

今回の科学的根拠に基づいた記事も参考に、無理のない範囲で子供の「遊び」と「運動」を見守り、健やかな成長を後押ししていくことの重要だと、改めて思いました。

PAGE
1 2
ABOUT ME
谷本一真
谷本一真
理学療法士、呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士、PRP-Japan
PRI(Postural Restoration Institute)コンセプトを基に、障害予防やパフォーマンス向上を目的としたコンディショニング指導を行っています。また、小学生を中心にサッカー指導者としても活動し、子どもたちの心身の成長をサポートしてさせていただいています。 運動や生活習慣の改善を通じて、一人ひとりの健康づくりのサポートに情熱を注いでいます。個々のニーズや目的に応じたプログラム設計を行いますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。お問い合わせはSNSや問い合わせフォームからお願いいたします。
記事URLをコピーしました