健康の社会的決定要因:個人の努力だけでは解決できない健康格差

健康の社会的決定要因とは?
健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health, SDOH)とは、個人の健康状態を左右する社会的・経済的要因を指します。具体的には、所得や教育、職業、住環境、医療アクセスなどが含まれます。これらの要因は、単に個人の努力では解決できない構造的なものであり、健康格差を生む大きな要因となっています。私が住む宇和島市でも、免許返納による通院手段の狭小化や軽症の場合は仕事を優先し、受診を控えるケースもみられます。
日本における健康格差の現状
近年、日本においても健康格差が拡大していることが指摘されています。厚生労働省の報告によると、低所得層ほど生活習慣病のリスクが高く、喫煙率や肥満率も高い傾向にあります。また、地域による健康格差も顕著であり、都市部と地方、さらには都道府県内の地域差が問題視されています。
小塩隆士氏の著書『日本人の健康を社会科学で考える』によると、日本の健康政策は個人の自己責任を重視する傾向が強く、社会的要因へのアプローチが不足していると指摘されています。このため、根本的な健康格差の是正には、政治的な視点からの取り組みが不可欠だと考えられます。
健康格差を生む社会的要因
- 所得格差と健康
低所得者層ほど健康リスクが高いことは、国内外の研究で明らかになっています。経済的に厳しい状況では、健康的な食事を確保することが難しくなり、運動の機会も減少します。また、医療機関へのアクセスが制限されることも問題です。 - 教育と健康
教育水準が高い人ほど健康行動を取る傾向があります。健康に関する知識が豊富であり、リスク管理ができるためです。一方、教育機会が限られている人々は、健康リテラシーが低く、不健康な生活習慣に陥りやすくなります。 - 労働環境と健康
過酷な労働環境や長時間労働は、メンタルヘルスの悪化や生活習慣病のリスクを高めます。特に非正規雇用の増加により、健康管理が難しい状況に置かれる人々が増えています。 - 地域環境と健康
都市部では運動機会が少なく、空気汚染の影響も懸念されています。一方、地方では医療機関へのアクセスが悪く、早期治療の機会を逃すことが多くなります。
予防医学の推進には政治の力が必要
健康格差を是正し、予防医学を普及させるためには、政治の視点からの介入が不可欠です。具体的には、以下のような施策が求められます。
- 健康格差の実態調査とデータ活用
健康格差の現状を把握し、データに基づいた政策を策定することが重要です。地域ごとの健康格差を可視化し、課題に応じた対策を講じる必要があります。 - 低所得者層への健康支援
経済的に厳しい人々に対し、健康的な食事の提供や医療費の補助、無料の健康診断などの支援策を拡充すべきです。 - 教育機会の拡充
健康リテラシー向上のために、学校教育の中で健康管理について学ぶ機会を増やすことが重要です。また、成人向けの健康教育プログラムも推進すべきです。 - 働き方改革の推進
労働時間の短縮や職場での健康支援策(健康診断の充実、メンタルヘルスケアの強化など)を進めることで、労働者の健康を守る必要があります。 - 地域ごとの健康施策
地域ごとの特性に応じた健康政策を立案し、自治体レベルでの取り組みを強化することが求められます。
まとめ
健康の社会的決定要因は、個人の努力だけでは解決できない構造的な問題です。健康格差を是正し、予防医学を推進するためには、政治の視点からのアプローチが不可欠です。政府や自治体が積極的に介入し、健康に配慮した社会環境を整えることが、持続可能な健康社会の実現につながると考えられます。2025年問題を迎えた今年、10年後に現在75歳の方々が85歳になることには、約6割が介護を必要とするともいわれています。介護が不要な状態を目指すことが、社会福祉を圧迫しない手段になります。またシニアの方々もQOLを維持し双方にとっても良いことになると思います。
【参考文献】
小塩隆士. (2020). 『日本人の健康を社会科学で考える』. 日本経済新聞出版.
厚生労働省. (2023). 『健康格差の現状と対策』. https://www.mhlw.go.jp/
https://www.mhlw.go.jp/search.html?q=健康格差&cx=005876357619168369638%3Aydrbkuj3fss&cof=FORID%3A9&ie=UTF-8&sa=