理学療法士としての学び
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片脚立位時間における新たな視点

谷本一真
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【論文著者】

  • 田原 康治(博士・愛媛大学病院アンチエイジングセンター)他

面白い視点の研究だなと思い、この論文を読みました。以下に要約しました。

【背景と目的】

高齢化が進む現代において、無症候性脳小血管疾患(cSVD)は脳卒中や認知機能低下の前兆として重要視されています。従来、MRIによる空白梗塞、微小出血、周囲白質高信号(PVH)で評価されていたcSVDですが、本研究は、日常的に簡便に実施できる「片足立ち時間(One-Leg Stand Test:OLST)」に注目し、姿勢の安定性とcSVD、さらに認知機能との関連性を横断的に検討しました。医療現場での早期リスク把握と、将来的な介入策の基礎となる知見を提供することを目的としています。

【研究方法】

  • 被験者と募集背景
    2006年2月~2013年6月に、愛媛大学病院アンチエイジングセンターの健康診断プログラムに連続参加した中年~高齢者1387人が対象です。これらは、明らかに健康な一般住民から募集され、書面によるインフォームド・コンセントの下で実施されました。
  • 姿勢評価
    • 被験者は目を開けた状態で片足立ちを行い、2回の試行結果のうち最大のOLST(最大60秒)を採用。
    • 特に「20秒未満」の立位時間を、姿勢不安定性のカットオフとして定義しました。
  • 脳MRIによる評価
    3テスラMRIを用い、以下のcSVD所見を評価:
    ① 空白梗塞(3~15mmの低信号領域)
    ② 微小出血(T2*加重画像上の小さな低信号病変)
    ③ 周囲白質高信号(PVH、グレード0~4)
  • 認知機能評価
    タッチパネル型認知症評価尺度(TDAS)を使用し、認知機能の程度を定量的に評価しました。
  • その他の評価
    頸動脈内膜-中膜厚(IMT)や高血圧、2型糖尿病などの臨床パラメータも測定し、共変量として解析に組み込みました。

【主要な結果】

  • OLSTとcSVDの関連性
    • 片足立ち時間が20秒未満の被験者では、空白梗塞や微小出血の発生頻度が有意に高く、PVHの重症度も上昇する傾向が見られました。
    • 共変量(年齢、性別、BMI、喫煙、高血圧、糖尿病、IMTなど)を補正後も、短いOLSTと空白梗塞・微小出血との関連は統計的有意性を示しました。
  • OLSTと認知機能の低下
    • OLSTが短い群では、TDASスコアが低下し、認知機能が著しく低いことが明らかになりました。
    • この関連は、cSVDの有無にかかわらず独立して確認され、姿勢不安定性が認知機能低下の早期指標となり得ることを示唆しています。

【考察】

本研究は、従来のMRI評価だけでは捉えきれない、日常生活で簡便に実施できるOLSTが、高齢者における初期の脳小血管病変や認知機能低下のリスクを示す有用な指標となる可能性を示しています。
また、医療提供側としては、OLSTの結果をもとに、早期介入や生活改善のアドバイスを行うことが、後の重篤な脳血管イベントや認知症の予防につながると考えられます。弁護士の視点からも、こうしたリスク評価結果を十分に患者へ説明し、インフォームド・コンセントを徹底することで、医療過誤や訴訟リスクの軽減にも寄与するでしょう。

【結論】

健康な中年から高齢者において、片足立ち時間が20秒未満あることは、無症候性脳小血管疾患(特に空白梗塞・微小出血)の重症度上昇および認知機能低下と密接に関連しています。OLSTは、簡便ながらも高齢者の脳の健康状態を把握するための有望なスクリーニングツールとして、今後の臨床現場での活用が期待されます。

私も介護予防事業において、片脚立位時間を測定しますが、上記の印象は間違っていないなと感じています。今後も片脚立位時間から推察できる事を把握しながら、運動機能測定を実施していきたいと思います。

【文献】

  • 田原 康治ほか. 「姿勢不安定と無症候性脳血管損傷と認知機能低下との関連―日本島波健康増進プログラム研究」. 臨床科学, 2014.

ABOUT ME
谷本一真
谷本一真
理学療法士、呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士、PRP-Japan
PRI(Postural Restoration Institute)コンセプトを基に、障害予防やパフォーマンス向上を目的としたコンディショニング指導を行っています。また、小学生を中心にサッカー指導者としても活動し、子どもたちの心身の成長をサポートしてさせていただいています。 運動や生活習慣の改善を通じて、一人ひとりの健康づくりのサポートに情熱を注いでいます。個々のニーズや目的に応じたプログラム設計を行いますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。お問い合わせはSNSや問い合わせフォームからお願いいたします。
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